カザフスタン近代史で最大の悲劇=アラル海の旧湖底に植林を続ける石田紀郎氏

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Translation / 翻訳

 昨年1月、カザフスタンの駐日大使が、東京都内で記者会見を行い、一昨年の年明けから続く反政府デモが「カザフスタン近代史で最大の悲劇だ」と語り、デモの参加者を「テロリスト」と形容した。最近のデモをなぜ「近代史」の事件とするのか不明だが、カザフスタンの現代史で最大の悲劇はアラル海の縮小ではないかと思っている。


 カザフスタンとウズベキスタンにまたがるアラル海の縮小は「20世紀最大の環境破壊」と形容されている。アラル海はかつて日本の東北地方と同じぐらいの湖面積があったが10分の1にまで縮小した。旧ソ連時代にアラル海にそそぐアムダリア川とシルダリア川の水資源を綿花栽培と稲作栽培に無計画に大量に使った結果だ。

石田紀郎氏
http://shukusho.org/data/ishida.party.pdf


 京都大学の教授であった石田紀郎さん(1940年生まれ)は、カザフスタンに現地調査に出かけ、アラル海の河川流域の農薬問題やアラル海の沙漠化を研究していたが、京大を2003年に退官すると、NPO「市民環境研究所」を立ち上げ、アラル海の環境問題に取り組むようになった。アラル海の湖岸にあった村は乾いた湖底から吹き付ける砂に埋もれるようになった。アラル海が乾燥化したことによる塩害によって周辺住人たちに呼吸器などの問題も起きている。アラル海の旧湖面などに立つと、口の中が砂と塩でザラザラしてくるそうだ。石田さんは、砂嵐や塩害による損害を減らすために、2006年からカザフスタンの旧湖底で地元の低木サクサウールの植林を始めた。


 旧湖底は白い塩で覆われるにようになったが、石田さんたちが毎年春先に2000本ほどの苗を植えると林と呼べるようなところもできて、砂漠にオアシスができたと喜ばれるようになった。現地では石田さんは「カザフスタンで最も尊敬される日本人」とも呼ばれるようになった。砂漠となった旧湖底に植林するのは大変な作業のようで、世界銀行や国連機関も石田さんに倣ってサクサウールの植林を行うようになった。


 ソ連は雨を降らない砂漠に農地を造成したために、大量の水が必要だった。それも東西冷戦の結果だったと石田さんは説明する。ケネディのアメリカを筆頭とする西側諸国はソ連がバターや小麦、綿花を買えないようにしたために、フルシチョフのソ連は綿花の畑を増やすことを意図し、中央アジアはソ連の綿花栽培の実に95%を担うようになった。フルシチョフの農業政策が成功したのと引き換えにアラル海は干上がってしまったのだ。


 石田さんは琵琶湖の調査も行い、琵琶湖にも魚がいっぱい住める、あるいは琵琶湖の水が飲めるような状態にならないと琵琶湖周辺の農業もダメになってしまうと警告する。アラル海問題とはわれわれ日本人の問題でもあるのだ。砂や塩の飛散を防ぐには木が必要で、木が生えれば、砂の移動も弱まり草も生えて、種が落ちて芽が出る。この循環が繰り返されれば人も住めるようになるというのが石田氏の考えだ。石田さんは元々世界に不平等にある水をどう利用するかを日本人に問題提起したいという。世界人口が増え続けたら日本に農産物も売らない国も出てくるだろう。そんな時代に備えて日本には水の確保ができているのか、かつて淡路島や明石あたりにあったため池も減っている、これで大丈夫だろうかと石田さんは述べている。

カザフ女性
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