昨年1月21日付の「NewSphere」に「2022年の国際テロ情勢 懸念すべき国際社会の関心低下」という記事があった。アフガニスタンやサヘル(サハラ砂漠南縁地帯)諸国では自力で過激派の対応する能力がなく、また米軍がアフガニスタンから撤退し、フランスもサヘル地帯への関与を弱めることからテロ情勢には改善がないのではないかという内容だ。
アフガニスタンで用水路の建設など支援活動を行った中村哲医師は、その著書『医者、用水路を拓く』(石風社、2007年)の中で石川啄木の詩を紹介している。
われは知る、テロリストの
かなしき心を―
言葉とおこなひを分ちがたき
ただひとつの心を、
奪われた言葉のかはりに
おこなひをもて語らむとする心を、
われとわがからだを敵に擲つくる心を―
しかして、そは真面目にして熱心なる人の常に有つかなしみなり

この詩は「大逆事件」で1911年1月18日に幸徳秋水らが処刑されたおよそ5か月後に啄木が病床で詠んだものである。処刑は幸徳秋水ら社会主義者や無政府主義者を根絶したい当局の捜査でっち上げによる性格が強かった。処刑には自由な言論を封じようとする当局の意図があったが、啄木は事件の真相を知って処刑された者たちに同情を寄せた。この詩を詠んでも啄木は罰せられることはなかったが、中村哲医師は911の同時多発テロ発生直後の日本社会の様子は、この時よりも言論の自由がないのではないかと語っている。

https://okstars.okwave.jp/vol822/
「『自由とデモクラシー』は死語になった」と中村医師は同書の中で述べているが、911の同時多発テロという攻撃を受けたアメリカを批判することは許されなくなり、「国際協調」「国際支援」の「国際」はアメリカのことを指すようになった。ブッシュ大統領は「われわれの側につくか、テロリストの側につくか」と声高に叫んだが、中村医師が危惧していたのは、この風潮の中で自衛隊がアフガニスタンに派遣され、アフガニスタンの人々の対日感情が損なわれ、その支援活動に支障をきたすことだった。国会で参考人に招致され自衛隊の派遣は「有害無益」と語ると、鈴木宗男議員などからは罵声を浴びせられ、司会役の亀井善之議員からは発言の撤回を求められた。

当時、私の体験でもテレビの討論番組で評論家の竹村健一氏は「フランスのルモンドに『我々は皆アメリカン』という論調が出たんや。だから日本もアメリカを支援せねばあかんのや。」と語ったが、アメリカとともに軍事行動に一緒になると、日本人もテロの標的になりますよと私が語ると、竹村氏は番組終了後、私のところにやってきて「わしが一番心配しておるんは国民があんたの言うことを信用することや。」と語っていた。
啄木の詩は言論の自由のなさがテロを招くということを言っていたと思うが、現在のテロは、欧米の軍事介入、イスラエルの不正義を欧米が黙認すること、経済格差、やはり言論の自由が欠如する政治体制などの問題から発生している。海部俊樹元首相が亡くなった際にも述べたが、国際的評価とはアメリカだけの評価ではない。テロに遭わないためにも日本は世界にもっと広く目配りをした外交を行うべきだろう。
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