「反シオニズム」と「反セム(ユダヤ)主義」は違う ―チョムスキーとムハンマド・アサド

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 2020年11月にイスラエルを訪問したアメリカのポンペオ国務長官は、イスラエルに対するBDS(ボイコット、投資撤収、制裁Boycott, Divestment, and Sanctions)運動は「反セム(ユダヤ)主義」だと発言した。

Gigi Hadid Palestinian beauty
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 同年7月に言語学者のノーム・チョムスキーは、イスラエルを批判することや、パレスチナ人を支援することが「反セム主義」という汚名を着せられることになり、この「武器」が前イギリス労働党党首のジェレミー・コービン氏に対する下品で、欺瞞に満ちた誹謗中傷となったと述べている。


「反シオニズム」とはパレスチナ人の人権を侵害するイスラエルの政府の政策を批判することで、ユダヤ人を差別、迫害、排除するナチス・ドイツが行ったような「反セム(ユダヤ)主義」と区別されるべきである。イスラエルを批判する者を「反セム主義」と形容することは、ナチス・ドイツの反ユダヤ政策を支持しているという印象を与えることになり、「反セム主義」の本質を正しく伝えず、その犠牲となった人々を冒涜することにもなりかねない。


 チョムスキーによれば、イスラエルはリベラルな市民の支持を失い、欧米の最も反動的な勢力や原理主義的な福音派の運動によって支持されるようになり、これらの運動は、反セム主義のイデオロギーをもちながらも、イスラエルの過激な行動を支持している。福音派の考えでは、イエスの復活によって成立する千年王国ではユダヤ人の特別的な地位を認めることはなく、トランプ大統領を支持する福音派には白人至上主義者が多い。


 20世紀ヨーロッパで最も影響力があったとされるイスラム学者のムハンマド・アサド(1900~92年)は、オーストリア・ハンガリー支配下の現ウクライナでユダヤ人の家庭に生まれた。ユダヤ人名をレオポルド・ヴァイスというが、シオニズムに疑問を感じて1926年にイスラムに改宗した。彼にとっては、イスラムは人間の普遍的価値を伝え、他方ユダヤ教は排他的な考えをもっている。彼は、政治とイスラムの融合は不可欠であり、社会は神の意思に従わなければならないと考え、現在のイスラム主義のイデオロギーにも近い考えをもっていた。

ムハンマド・アサド
https://en.wikipedia.org/wiki/Muhammad_Asad


 アサドは、シオニズムの考えに基づく移民のユダヤ人たちが欧米の列強に支援されながら、パレスチナで多数派になろうとしてやって来て、先史時代からパレスチナの地に住む人々の土地や財産を奪うのは、不道徳なものと考えた。彼は、シオニズムは植民地主義と結びつく種族支配と考え、シオニズムがユダヤ人を「選ばれた民」と見なすことには、嘲りの感情さえもたざるを得ないと述べた。


 アサドはサウジアラビアでも生活し、初代国王アブドゥル・アズィーズとも親密になったが、サウジアラビアの腐敗した官吏を批判し、政府はより敬虔に、贅沢を抑制するように訴えたが、それで王政との軋轢が生じた。


 アサドのシオニズムやサウジアラビア批判は現在にも通じるものがあるが、ユダヤ人であった彼のシオニズム批判が「反セム主義」ではないことは言うまでもない。
アイキャッチ画像はチョムスキー
同感に思います。
https://bdsmovement.net/news/chomsky-clarifies-position-cultural-boycott-israel?fbclid=IwAR0jhrkcMovh9MK5OCQKmPJlDTzBhBvQAAmKr9iV6FZFE103tX0qTEmPr1Q

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