「国際社会」は米国だけを意味しない 日本はすぐ米国と一体になりたがるけど・・・

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 先代ジョージ・H・W・ブッシュ元大統領(1924~2018年)は、中東地域をウォッチしてきた者から見れば湾岸戦争を主導した大統領というイメージが強い。海部元首相は、ブッシュ大統領にペルシア湾岸地域に自衛隊を派遣することを求められたが、憲法を理由にこれを断った。これまでも紹介してきたが、当時の後藤田正晴官房長官も「どんな立派な堤防でもアリが穴をあけたら、そこから水がちょろちょろ出ていずれ堤全体が崩れることになる。アリの一穴をやってはいけないよ」と語り、自衛隊派遣に反対した。

いらない
そもそも大統領世襲自体が民主主義の原理に合わない
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 湾岸戦争への日本の対応を回顧するものとして、「お金だけ出して人を派遣しない日本の姿勢に、国際社会の不満が高まりました。」(NHK10min.ボックス)「日本の湾岸戦争での『貢献』が世界的には評価が低く、日本外交の威信が低下したことは否めない。(中西寛・京大教授「湾岸戦争と日本外交」)など、日本の対応が世界から評価されなかったという見解がある。


 この場合の「世界」「国際社会」とは「米国」と置き換えかえたほうが正確だろう。湾岸戦争の直後シリアに出かけたら、「日本の多国籍軍への支援は金銭だけに限られていた。だから日本に対する良好な感情は崩れなかった」という日本の対応に対する肯定的な声に接したが、アラブ諸国政府はともかくそれが当時のアラブ・イスラムの人々の声を代弁していたと思う。欧米のイスラム世界への軍事介入に対しては19世紀の植民地主義時代以降、強い反発があり、アルカイダやISが欧米を標的にテロを起こすのもそうした歴史的背景もある。当時、ダマスカスに留学していたシリア史の日本人研究者は普段は冷静な人だが、「湾岸戦争でのふるまいを見て、あらためて『鬼畜米英』という気がします」と語っていた。

いらない
そもそも大統領世襲自体が民主主義の原理に合わない
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 確かにサダム・フセイン政権のイラクはクウェートに侵攻したが、アラブの地域機構である「アラブ連盟」が域内での解決を唱えていたにもかかわらず、この動きを無視してブッシュ政権は、イラクとの対立・戦争に向かっていった。1980年9月にフセインのイラクはイランに侵攻したが、米国はこれを非難することがなかったばかりか、「侵略者」のイラクを軍事的にも支援した。


 日本は湾岸戦争の「反省」を背景に、1992年に平和協力法を成立させ、自衛隊の海外派遣に法的な根拠を与え、さらに2015年9月に平和安全法制を成立させて集団的自衛権の行使を可能にさせた。


「ともにひどい経験をしたドイツが今でも平和維持に大きな力を発揮しているのに、日本は、アメリカの衛星国家としてカモにされているのかということだ。あなた方には強い経済もあり、良質な労働力もある。なのに、なぜ立ち上がろうとしない?」(オリバー・ストーン監督、2013年8月6日に原水爆禁止世界大会の広島会場でのスピーチ)


 当たり前だが、日本は法治国家で、憲法を盾にすれば、米国の軍事行動と一体にならなくても、経済的に日本を不可欠に必要とする米国との関係も大きく崩れることはないと思っている。米国への追随姿勢から世界の「平和維持に大きな力を発揮している」と見られていないことが大変残念だ。

アイキャッチ画像は

湾岸戦争
燃えるクウェートの油井
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早野透=桜美林大教授・元朝日新聞コラムニスト
2014年6月17日10時18分
◆写真は海部俊樹首相(左、当時)と話し合う後藤田正晴・元官房長官=1991年3月15日、衆院本会議場
 大学で教師をしている身にとって、4月から6月ぐらいは新1年生を迎えて新鮮な気持ちになる季節である。高校を出たばかりの18歳、私はジャーナリズム論を教えているから、「これからは新聞を読んで、社会のことにも関心を持ってね」とこのごろの安倍政権のことも話題にする。むろん偏向しないように気をつけながら。
 そんな授業のさなか、「はーい、先生」と手が挙がった。いったい何かしらと聞くと、「アベさんってだれですか」と言うのである。そうか、アベさんって総理大臣のことだって知らない子もいるんだね。みんなすなおでいい子たちだけれども、スマホの世界で育ってくるとそんなものかもしれない。
 いまの大学生はみんな平成生まれ。バイトに追われ就活も苦しいことが多いけれど、何はともあれ平和な平成の世に生まれ育っている。さほどニュースに関心をもたなくても生きていけるというのは、それはそれでいいことなのかもしれない。
 しかし、このたび成立した国民投票法では、18歳から投票権を持てるようにするそうである。安倍さんはいずれ憲法9条の改正を俎上(そじょう)に載せて投票してもらおうという心積もりだろう。それなのに、18歳があんまり無関心でも困る。憲法とは何かぐらいは知ってもらわねばなるまい。新聞記者から転身した新米教師ではあるけれど、こりゃなかなか教えがいがあるなあと思った次第である。
■導火線は「湾岸戦争のトラウマ」
 
 過日、テレビ朝日の報道ステーションに海部俊樹元首相が出演して、1991年の湾岸戦争のことをしゃべっていた。イラクがクウェートを侵攻、それに対してアメリカを中心とする多国籍軍が反撃した戦争である。ぼくらは湾岸戦争といえば、日本が130億ドルものお金を出したのにちっとも感謝されずにがっかりしたあの戦争ねとピンとくるが、いまの大学生にとっては生まれる前の話である。そんな話も噛(か)んで含めるように話さなければ伝わらない。
 当時、首相だった海部さんが言うには、実はそのとき、ブッシュ米大統領はShow the flag(旗を立てろ)、「自衛隊を派遣してくれ、一緒に汗をかかないか」と迫ってきたそうである。海部さんは「憲法9条は交戦権を認めていない。クウェートのために日本がイラクと戦うことはできない。国民が許さない。それが、アメリカが与えた日本の国是ではないか」と断った。しかし、いま安倍さんが夢中になっている「集団的自衛権」の行使を認めれば、日本は戦地への自衛隊派遣を拒めなかったかもしれないと、私には思われる。
 今回の「集団的自衛権」の行使容認論の最大の導火線は、いわゆる「湾岸戦争のトラウマ」である。あのとき金を出すだけでなく人(自衛隊)も出していれば一人前の国家として胸を張ることができたのにという思いが安倍さんや外務省の根底にある。さて、あのときの日本はへっぴり腰でみっともなかったのかどうか。海部さんは、そうではないともうひとつの裏話を披露した。
 「あのとき、後藤田正晴さんがやってきて座って動かないんだ。どんな立派な堤防でもアリが穴をあけたら、そこから水がちょろちょろ出ていずれ堤全体が崩れることになる。アリの一穴をやってはいけないよと言うんですよ」
 そう、はじめはちょっとだけというつもりでいても、次に似たようなことが起きるとこんどもいいかとなり、だんだん拡大解釈されて、いずれ日本は平気で「戦争をする国」になってしまうよという戒めである。振り返れば、戦前のアジア侵略の歴史がそうだった。いま自民党と公明党の協議は「きわめて限定した範囲で集団的自衛権を認める」ということならよかろうということになりそうだが、それが危ない。まさに「アリの一穴」の典型になりそうである。
■平和を生きる世代に聞くべきこと
 いまの大学生に聞くと、中曽根康弘さんの名前は「総理大臣だった」とクラスで1人か2人は知っている。しかし後藤田正晴さんのことはまったく知らない。
 
 後藤田さんは、海部さんに「アリの一穴」を戒める前、中曽根内閣の官房長官を長く務めた。そのときの有名なできごとに「後藤田の諫言(かんげん)」がある。
 
 1987年、イラン・イラク戦争で両国がペルシャ湾に機雷を敷設、これに対し中曽根さんがタンカー護衛のために機雷除去の自衛隊の掃海艇を派遣したいと言い出した。しかし、後藤田官房長官は「それを自衛だと言っても通りませんよ。戦争になりますよ」と諫(いさ)め、絶対だめだと拒否した。「私は閣議決定にサインしませんよ」と念を押した。さしもの中曽根首相もあきらめた。 
 のちに後藤田さんにロングインタビューしたとき、なぜ中曽根首相にあえて逆らったか聞いてみた。「憲法上できないということもあるが、国民にその覚悟ができていたかね。できていなかったんじゃないか」と後藤田さんは明かした。それから20年余りたって、安倍首相は、自公協議にコメントして、「極めて限定した集団的自衛権」の範囲に「ペルシャ湾での機雷除去」も含めるべきだと主張している。
 
 戦争が起きたら、戦地に行くのは安倍さんではない。われわれ昭和生まれの年配者でもない。自分の国が侵されたときならばともかく、他国の戦争にまでしゃしゃりでて、若者に血を流させる覚悟なんて、私たちはとうてい持てない。持ちたくもない。憲法9条を読み返しても、そんな血を流すことを許容するとはどうしても読み取れない。閣議決定で解釈変更などとは勝手すぎる。せめても憲法改正という手続きをとり、未来をになう18歳の若者たちを含めた国民投票によって、ほんとうに「血を流す覚悟」があるかどうかを聞くべきではないか。私は「アベさん」の名前も知らない平和の時代の学生を前にして、そんなふうに思うのである。(早野透=桜美林大教授・元朝日新聞コラムニスト)
http://d.hatena.ne.jp/cangael/20140630/1404095913
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