政治の警察権力への介入を許してはならない  ―安倍政治と映画「Z」の世界

日本語記事
スポンサーリンク
Translation / 翻訳

 文春オンラインの西﨑伸彦氏の記事によれば、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会理事で、受託収賄で逮捕された高橋治之氏は「最初は五輪招致に関わるつもりはなかった。安倍さん(安倍晋三元首相)から直接電話を貰って、『中心になってやって欲しい』とお願いされたが、『過去に五輪の招致に関わってきた人は、みんな逮捕されている。私は捕まりたくない』と言って断った。だけど、安倍さんは『大丈夫です。絶対に高橋さんは捕まらないようにします。高橋さんを必ず守ります』と約束してくれた。その確約があったから招致に関わるようになったんだ」と述べたそうだ。
https://bunshun.jp/articles/-/57255

権力は腐敗する
著者 前川 喜平
https://mainichibooks.com/books/social/post-517.html


 この記事を読んで暗たんたる想いになった。もし「確約」が本当だったら、日本では政治が警察権力に介入し、警察を意のままに動かしていることになり、日本の民主主義の重大な欠陥をさらしていることになる。まさに刑事ドラマに出てくる「上からの圧力」の世界だ。政治と警察権力の癒着は途上国の独裁政権などで見られ、独裁政権、あるいは権威主義体制では警察は国民の弾圧装置となってきた。また、政治と警察の癒着は、警察が権力をチェックすることがなくなり、政治腐敗も横行するようになる。


 政治の警察への介入で、アルジェリア・フランス共同制作の映画の「Z」(1969年)を思い出した。この映画は1970年のアカデミー賞外国映画賞を受賞したが、映画は地中海地域の軍部の影響力が大きい右派政権の国で、イブ・モンタンが演ずる野党民主勢力のリーダーZ氏が核軍縮を訴えるスピーチをしていると、右翼の暴漢に襲われ、頭を殴打される。議員が演説をしていたホールを出ると、議員の後をつけてきたトラックに乗っていた男から再び頭部をこん棒で殴打されて、彼は亡くなってしまう。しかし、警察は酒酔い運転のひき逃げ事件として処理する。

これも高橋治之氏に安倍元首相が「絶対に高橋さんは捕まらないようにします」と言ったことと同様ですね。安倍元首相は「山口さんは絶対に捕まらないようにします」とでも考えたのだろうか。
https://blog.goo.ne.jp/…/514ba4e8d0b07e2d2c3321db4100e967


 ところが、事件を目撃していた病院関係者たちはそのひき逃げを否定し、故意の暴力であると訴えたことを受けて、ジャン=ルイ・トランティニャン演ずる予審判事は、フォトジャーナリストの協力を得て捜査に乗り出し、2人の右翼の男と、4人の軍警察の高官たちが国会議員Z氏の暗殺に関与していたことを暴く。

ジャン・ルイ・トランティニャン主演
映画「男と女」
https://www.banger.jp/movie/28230/


 映画は権力の濫用の恐ろしさを描く。予審判事は職を解かれ、重要な目撃者は次々と怪死を遂げていく。容疑がかかった右翼の人間たちは短期の懲役刑ですまされ、軍警察の高官たちは懲戒処分を受けるにとどまる。Z氏の同僚たちも暗殺されるか、国外追放となり、検察官に協力したフォトジャーナリストは機密文書を暴露した罪状で刑務所に送られる。世論の抗議が高まる中で政府首班は辞職するが、しかし総選挙前に軍部のクーデターが起こり、モダン芸術、ポピュラー音楽、前衛小説、哲学研究などを禁止する。


 この映画は1963年にギリシャで本当に実際に起きた自由主義者で反戦を唱えたグリゴリス・ランブラキス(1912年生まれ)暗殺事件や当時のギリシャ政治を題材にしている。ランブラキスは映画のZ氏のモデルだが、ランブラキスはナチス占領下ではレジスタンス運動に加わり、ベトナム反戦も唱えていた。暗殺される1か月前にはマラトンからアテネまでの「平和大行進」が政府によって禁止される中で、一人で行進を貫徹した。ランブラキスは陸上競技選手でもあり、バルカンの陸上大会では何度も優勝するほどだった。


 映画のタイトル「Z」は、ギリシャ語の「Ζει」に由来し、「彼(ランブラキス)は生きている」を意味するが、これは権力を濫用する当時の軍部を後ろ盾とするギリシャの右派政権や極右勢力に抵抗する民衆のスローガンであった。

グリゴリス・ランブラキス
https://page.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/s794556108


 政治家が個人的に親しい人物の逮捕を免れるように警察に圧力をかける権力の濫用は決して許してはならないと思う。かりに常習的に行われているとすれば、それを正すことを求める国民が強い意志や、その国民へのメディアの後押しなどが必要とされている。
アイキャッチ画像は映画「Z」
https://fpd.hatenablog.com/entry/2016/09/08/103000

日本語記事
miyataosamuをフォローする
Follow by E-mail / ブログをメールでフォロー

If you want to follow this blog, enter your e-mail address and click the Follow button.
メールアドレスを入力してフォローすることで、新着記事のお知らせを受取れるようになります。

スポンサーリンク
宮田律の中東イスラム世界と日本、国際社会

コメント

宮田律の中東イスラム世界と日本、国際社会をもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む

タイトルとURLをコピーしました