ゴダール監督はフランスの人権侵害に抗議した ーアルジェリア独立戦争に共感した日本人たち

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 フランスの映画監督ジャン=リュック・ゴダール氏が亡くなった。日常生活に支障をきたすほどの病に苦しみ、「自殺ほう助」による死を選択したという。1960年の「勝手にしやがれ」で注目を浴び、フランス映画ヌーベルバーグの巨匠とも形容された。

小さな兵隊
アンナ・カリーナ
https://online.stereosound.co.jp/_ct/17311411


 ゴダール監督には「小さな兵隊」というアルジェリア独立戦争をテーマにした映画がある。主人公のブルーノはフランスの秘密軍事組織OASのエージェントだったが、OASへの忠誠心を疑われ、反OASのジャーナリストの暗殺を命令される。しかし、暗殺を果たせずに恋人のヴェロニカとともに逃亡してしまうが、実はヴェロニカはアルジェリアのFLN(民族解放戦線)のスパイだった・・・。


 ヴェロニカ役で後にゴダール監督の夫人となるアンナ・カリーナが美しく魅力的だ。この映画はアルジェリアが独立した1962年の6月にOASとFLNの停戦が発効してから半年を待たなければ公開できなかった。特に拷問シーンは当時話題になったが、フランスのアルジェリアでの拷問の多用は国際社会からも問題視されていた。ゴダールにはフランスによる人権侵害を告発する意図もあったのだろう。

チラシ
https://aucfree.com/items/b375248019


 今年はアルジェリア独立60年だが、フランスのアルジェリア人に対する人権侵害は当時際立っていた。アルジェリアなど北アフリカを対象に文化人類学を研究している宮治美江子氏は、アルジェリアで過酷な独立戦争が戦われている中、日本でも「60年の日米安保条約反対闘争が激しさを増し、大学に行けば『デモに行きませんか』と誘われ、都心でのジグザグデモにも参加した。・・・そうした政情の中で私たちは、独立戦争の最終段階で、フランスのマシュ将軍による壮絶な空爆や厳しい拷問に耐えて闘うアルジェリアの人々に共感したのである。」と書いている。(宮治美江子「中東研究者が今考えること 戦争体験・アルジェリア独立・チュニジア市民の力」長沢栄治・栗田禎子編『中東の日本の針路 「安保法制」がもたらすもの』)


 また、フランス軍の拷問の実体を告発したアンリ・アレグの『尋問』(1958年)がフランスで出版されると、作家の長谷川四郎は間髪入れずに翻訳した。フランスがいかに強圧的な支配を行ったかは、イスラエルのタカ派のアリエル・シャロン元首相がイスラエル国家維持のために、フランスとアルジェリアの闘争から教訓を得ようとして、アルジェリア独立戦争の歴史書『Savage War of Peace(平和のための野蛮な戦争)』を枕元に置いて愛読し、パレスチナ人たちとの戦いの参考にしたことからもうかがえる。


 私市正年・上智大学教授の論稿「アルジェリアの国家建設と日本」(『日本・アルジェリア友好の歩み』、千倉書房)によれば、1960年と1965年の2年は、朝日新聞の中東報道ではアルジェリアがトップで、1967年の「朝日ベストテン映画祭」で「アルジェの戦い」が外国映画部門では1位となった。


 私市教授によれば、「1960年代、アルジェリアはまさに反帝国主義闘争のシンボルとして、また『第三世界の旗頭』として名声が高かった。民族の解放を目指す指導者たちがアルジェリアを目標とし、世界の若者たちがアルジェリアを尊敬の目で見つめていた。」(同書より)1960年代には学生運動の活動家たちがフランスのパリなどでアルジェリア独立戦争を担ったFLN(民族解放戦線)の元メンバーたちと接触し、また1961年には独立戦争を支援する「日本北アフリカ協会」が国会議員の宇都宮徳馬、江田三郎、建築家の丹下健三などが中心になって設立された。


 下はアルジェリア出身のフランスのシャンソン歌手エンリコ・マシアスの反戦歌「涙のベルジェ」という曲だが、マシアスはスペイン・アンダルシア地方からアルジェリアに渡ったユダヤ系の家庭に生まれたピエ・ノワール(アルジェリア引揚者)だった。ピエ・ノワールはフランスに引き揚げてもその社会で差別の対象だった。
銃声が鳴り響いて
羊飼いが倒れた
人の心は涙に濡れて
闇が世界を包んだ
その亡骸の前では
またも戦争が始まる
平和のために
倒れた彼の
思い出さえも忘れて
後に続く者は誰もいないのか
犠牲の上に過去の歴史が
切り開かれてきたのに
旗を真っ赤な血で染め
羊飼いが世を去った
牙をむき出し狼どもは
子羊の群れを襲う
腕をこまねくだけではこの世はどうにもならない
平和のために尽くした彼の死も無駄になってしまう
声が続く限り愛を歌いたい
明日の歴史をつくり出すのは私たちの義務だから
生まれ故郷の大地に
羊飼いがまどろむ
生きとし生ける人の心に
希望と夢を残して
(永田文夫訳詞)
歌の動画は https://www.youtube.com/watch?v=ZI8fv9udMLQ にある。


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