ソフィア・ローレンの米寿と「二人のおんな」、「戦争に正義はない」

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 ソフィア・ローレンが9月20日に米寿を迎えたというニュースに接した。今年ロシアがウクライナに侵攻し、ウクライナをロケ地にして戦争の悲劇を描いたビクトリア・デッシーカ監督の映画「ひまわり」が各地であらためて上映された。「ひまわり」はこのウォールでもロシアの侵攻後に紹介したことがある。


 ソフィア・ローレンが主演した映画には同じビクトリオ・デシーカ監督で第二次世界大戦の背景に反戦への強い想いが込められた「ふたりの女」(1960年)がある。ソフィア・ローレンはこの映画でアカデミー賞とカンヌ映画祭の主演女優賞を受賞した。


 1943年、イタリアの首都ローマは連合軍の空襲にさらされるようになったが、食料品店を営む未亡人のチェジーラ(ソフィア・ローレン)は、12歳の娘のロゼッタの安全を考えて故郷の村に疎開を決意する。故郷の村で同じ疎開者の大学生ミケーレ(ジャン・ポール・ベルモント)が母娘の面倒をよく見てくれた。ロゼッタはミケーレを慕うようになるが、多感なロゼッタは、ミケーレが母のチェジーラに関心があることに気づいていた。

映画「二人のおんな」より
ソフィア・ローレンとジャン・ポール・ベルモント
https://www.pinterest.jp/pin/467811480037037348/


 ヨーロッパ戦線にも変化が訪れ、独裁者のムッソリーニは幽閉され、ドイツ軍占領下の疎開先の村にもイギリス兵が潜入するなど連合軍がイタリア戦線でも次第に優位になっていった。ミケーレは敗走するドイツ軍の案内役として強制的に連れていかれ、母娘の前から姿を消した。村には米軍の戦車が進駐するなど連合軍の下での平和が訪れようとしていた。


 情勢にはまだ不安なものあったものの、ローマの店のことが心配になったチェジーラはロゼッタを連れてローマへの帰途に着いたが、途中教会で母娘が休んでいると、連合軍の北アフリカ植民地兵がやってきて母娘を代わる代わる暴行してしまう。チェジーラは気がつくと自分の衣服がボロボロになり、ロゼッタも放心状態にあお向けになっていた。心に深い傷を負った母娘は通りかかったトラックに乗せてもらい、その夜はその運転手の若者の家に泊まった。チェジーラはそこでミケーレが死体となって発見されたこと、半ば自暴自棄になったロゼッタが運転手の若者と戦勝祝賀パーティーに出かけたことを知る。チェジーラは戻ったロゼッタを激しくなじったが、娘は感情をなくした抜け殻のような状態だった。しかし、ミケーレが亡くなったことを告げられると激しく泣き出し、母娘はいつまでも抱き合うのだった・・・。


 母娘の心情を思うと、あらためて観ることができないほど、彼女たちの慟哭が伝わってくる映画だ。またこの映画は戦争に正義などないことを教えてくれる。暴行したのはファシズムからの解放を訴え、全体主義を悪と主張する連合軍の兵士たちだった。この北アフリカの植民地兵たちも半ば強制的に、あるいは生活の貧しさから植民地主義のヨーロッパ諸国によって戦争に駆り出され、ヨーロッパ諸国の軍隊の弾除けのように前線で使われた。さらに、この時代、イタリア人たちはファシズム支配の強権的政治、また降伏によるファシズム体制の崩壊と目まぐるしく為政者や価値観が変わり、何が正義かも冷静に判断できない状態だった。

ヴィットリオ・デ・シーカ監督「ひまわり」
https://www.jcci.or.jp/news/local-front/2022/0502101927.html


 22日の朝日新聞で美輪明宏さんが核兵器で恫喝するプーチン大統領をとらえて「自分だけが優位と思うのは大馬鹿」と述べている。核兵器を使用すれば、核の報復を受け、自分の国も滅びることを指摘している。プーチン大統領は「自国の領土」であるクリミア半島がウクライナ軍の手に落ちそうになれば核兵器を使用するという見方もあるが、クリミア半島はロシアが武力で獲得したところで、ロシアの主張には正当性がない。


 近い過去を見ても米国のイラク戦争、アフガン戦争とおよそ正義とは言い難い戦争が続いた。戦争はプーチン大統領のような為政者の名誉欲、ナショナリズム、米国などの軍需産業の利益のために戦われ、無辜の市民たちを慟哭の下に置く。所詮正義のための戦争などなく、美輪さんが記事でも述べているように、私たち市民は平和のための声を上げ続けることが肝要だが、そのためには戦争が起こるからくりやその空しさを理解、認識し、それを次世代に伝えていくことが求められている。
アイキャッチ画像はソフィア・ローレン
https://www.pinterest.fr/pin/451345193881636385/

ヴィットリオ・デ・シーカ
俳優でもあった
https://filmforum.org/series/vittorio-de-sica-attore-regista-seduttore-series?fbclid=IwAR1FgYUkMfrEenXT33AUaf1v1n0s8cnjmb4nteWAjFldO0MNdJzk_heCigA
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