大英帝国の無責任 ―最も親イスラエル的な立場をとるトラス首相の誕生

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9月22日付のイギリスの『ザ・タイムズ』紙によれば日、トラス英首相は駐イスラエルのイギリス大使館をテルアビブからエルサレムに移転することを検討するのだそうだ。イギリスは従来エルサレムの帰属はイスラエルとパレスチナの協議にゆだねる立場だったので、トラス政権はエルサレムを首都と主張するイスラエルの立場に寄り添うことになるが、これは国際法に照らせば不当な動きだ。
 米国はトランプ政権時代に駐イスラエルの大使館をエルサレムに移転したが、1980年8月20日に成立した国連安保理決議478号では、エルサレムをイスラエルの統一された首都とする「エルサレム基本法」を、武力によって領土を得ることは容認できないことを確認し、イスラエルの「エルサレム基本法」を否定した。

イギリスは中東で重大な歴史的汚点を残した
https://yamatake19.exblog.jp/18361234/


 この安保理決議は「エルサレム基本法」が国際法に違反し、1949年8月の文民の保護を定めた戦時国際法に違反すると訴えた。また、「イスラエル基本法」が無効であることを強調し、包括的で、正当な、また永続する中東和平の達成にとって重大な障害となり、エルサレム基本法は断じて認められず、国連加盟国はこの決議を受け入れ、エルサレムにおいて外交活動を行っている国は、その活動を停止しなければならないとして、実質的にエルサレムにおける外交活動を禁じた。つまりイスラエル以外の国が大使館をエルサレムに移転し、外交活動を行うことをこの安保理決議478号は禁じているのである。


 トラス首相のイギリスが大使館をエルサレムに移転すれば、この国連安保理決議478号に抵触することになる。パレスチナ問題の原因をつくり出した国のイギリスがイスラエル・パレスチナに対して公平を欠く姿勢をとるのは無責任であり、イギリスこそ大英帝国の植民地支配の負の遺産であるパレスチナ問題の公平な解決に尽力すべきだ。

ボイコット・イスラエル
パレスチナに自由を
https://www.timesofisrael.com/u-of-toronto-student-union-boycotts-kosher-food-on-campus-over-israel-divestment/?fbclid=IwAR0AtnYUMTQZaxOXu-XhZuUOj8W7NNCfkvNP5Ta_B6zDXMpj4RH8lSlBcC0


 しかし、トラス首相はこれまでで最も親イスラエル的首相と見られている。外相時代にイギリスにとってイスラエルほど親密な同盟国はないとも発言している。ブレグジット後のイギリスにとってヨーロッパ以外の国であるイスラエルとの経済関係は重要になったが、トラス氏は外相時代にイスラエルとサイバーセキュリティ、テクノロジー、国防、貿易、科学分野での緊密な協力関係を推進していくことを表明した。


 トラス氏は、イギリスもイスラエルも愛国的国家であり、両国は自ずと協力関係になるようなパートナーであるとも発言したことがあり、イスラエルのラピド首相とは個人的に緊密な関係を築いている。また、トラス首相はイランの核エネルギー開発には厳しい姿勢をとり、この点でもイランを危険視するイスラエルと同調する立場だ。トラス氏は保守党内の政治的立場を強化するために反ユダヤ主義を非難し、地方議会がイスラエルに対するBDS(ボイコット、投資撤収、制裁)運動に参加することを阻止することにも尽力してきた。つまり彼女にとってイギリス国内の親イスラエル勢力の支持が重要と考えられているが、あたかも親イスラエル勢力を重視する米国の政治風土がそのままイギリスに移転したかのようだ。

バンクシーが主催したバルフォア宣言100年謝罪パーティー
2017年11月2日
https://www.arabnews.com/node/1186876/middle-east


 トラス首相は、サッチャー元首相を尊敬しているそうだが、サッチャー元首相はパレスチナ問題の進展を目指し、1980年にヴェネツィア宣言を出してイスラエルによる占領の終結とパレスチナ自治政府の樹立、また和平交渉でPLO(パレスチナ解放機構)が代表することを求めた。パレスチナ問題は大英帝国支配の負の遺産だが、イギリスにはイスラエルの入植地拡大を停止させ、パレスチナ人の困難な生活の改善や、パレスチナ国家創設を後押しするなどパレスチナ問題の公平な解決に取り組む責務があることは言うまでもない。
アイキャッチ画像はトラス首相、イスラエルのラピド首相と
https://www.haaretz.com/israel-news/2022-09-05/ty-article/.highlight/liz-truss-could-be-the-most-pro-israel-british-prime-minister-ever/00000183-0dc1-da9a-adeb-1fef2f010000?fbclid=IwAR2XdSkGaYHr4ezQY-yagjUhGyHbjYGX_M9vfDKS1RXbONhwTPjN2AfeyGQ

ヴェネツィア 昨年10月
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