科学者アインシュタインが日本に伝えるもの

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Translation / 翻訳

 著名な理論物理学者で、ユダヤ人のアインシュタイン(1879~1955年)は、1948年にユダヤ人の極右の武装集団「イルグン(現在のリクードの母体)」や「シュテルン・ギャング」がデイル・ヤシンというパレスチナのアラブ人村で虐殺事件を起こすと、「ニューヨーク・タイムズ」紙に意見広告を出し、これらの組織のことを「ファシスト」と形容し、ナチス・ドイツがユダヤ人に対してことと同様なことを、これらの極右組織は行ったと非難した。アインシュタインは、ユダヤ人が国境をもたずにアラブ人と共存していくのが本来のユダヤ教のあり方であり、ユダヤ教の教えが狭量なナショナリズムによって損なわれていくことを懸念した。


 現在、イスラエルでは、アインシュタインが否定したユダヤ人の極右主義のイデオロギーが台頭しているが、右翼のネタニヤフ首相は、イスラエル国家はユダヤ人の国家であるとする「ユダヤ人国家法」を閣議承認し、パレスチナ国家を認めないと明言したり、ネゲブ地方でアラブ人の家屋を毎年1000戸も破壊したりすることは、ユダヤ人の「抹殺」を意図したナチスの人種観にも相通ずるものだ。


 イスラエルで人種差別観が強まっていることは、2015年6月にイスラエルのシルヴァン・シャローム内相の妻であるジュディ・シャローム・ニル・モゼスが「オバマ大統領のコーヒーは『ブラック・アンド・ウィーク(black and weak)』よ」とソーシャル・メディアで語ったことにも見られた。ヨーロッパで極端なナショナリズムに訴えるオランダの「自由党」、フランスの「国民連合」は反イスラム主義の姿勢を鮮明にし、同様に米国内の極右のユダヤ人たちも、反移民、反アラブ、反ムスリムの主張を行っている。米国のユダヤ人右派が、反イスラムに熱心で、黒人についてほとんど言及しないことが、同年6月中旬にサウスカロライナ州で9人を射殺した容疑者のユダヤ人憎悪の発言となって表れた。彼は米国のユダヤ人社会が黒人を擁護しすぎると語っている。


 ナショナリズムに基づく「ネーション・ステート(国民国家)」の考えは国内の「異分子」への差別や偏見、排斥を求めるものであり、かつてナチス・ドイツに迫害されたイスラエルの右派勢力が人種主義によってアラブ人を排斥することは人間の悲しい「業」を示すものだ。


 日本でも、近年歪んだナショナリズムが台頭している感が強い。話題になった自民党の文化芸術懇話会で百田尚樹氏は、「反日」とか「売国」とかいう言葉を使いながら、「日本をおとしめるとしか思えない記事が多い」と語ったことがあるが、「反日」「売国」は、戦前の「非国民」という表現に通ずる言葉で、こうした言動は、かつてアインシュタインがイスラエル極右による活動がユダヤ教のイメージを損なうと指摘したように、日本や日本人のイメージを低下させるものだと思っている。

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