ゲバラが見た「悲劇から立ち直る日本」

日本語記事
スポンサーリンク
Translation / 翻訳

 今日、10月9日は革命家のチェ・ゲバラがボリビアで殺害されてから55年になる。ゲバラは、1959年7月、31歳の時に国立銀行総裁として通商団を率いて来日した。日本を訪問先として選んだのは当時のカストロ首相が日本びいきということもあったようで、カストロが首相就任後接見した最初の外国大使も日本大使だった。キューバが敵対するアメリカとの戦争に敗れ、米軍基地が置かれていることなどがその理由だったのかもしれない。


 ゲバラは東京では東都知事、藤山愛一郎外相、福田赳夫農相、池田隼人通産相などと面談した。池田通産相との会談ではキューバのモノカルチャーとも言うべき砂糖の売り込みを熱心に行った。関西に向かう途中富士山にも登ったが、時間の都合上9合目で下山した。愛知県のトヨタ自動車の工場や三菱重工の飛行機政策の現場などを見学し、大阪に向かった。キューバ産の砂糖の売り込みもあって大阪の財界人と北新地の料亭で会食し、芸者による接待も受けた。
 同行したフェルナンド大尉は次のように回想している。

三好徹「ゲバラ伝」(文藝春秋、1971年)より


「自分たちが見たゲイシャは、非常にモラルがあり、かつ格式があるように見えた。アメリカ人がいったこととは、まったく別な感じをうけた。チェ(ゲバラ)も同じ想いをもったとみえ、そのあとで私にこういった。『見たかね。アメリカ人たちがいった説明とわれわれが見たのとは、ぜんぜん違うじゃないか』 じじつ、そのとおりだった。パレ・ナシオナールで見るような踊りだったし、非常に美しかった。ただ長い時間タタミに座らされたことだけは、とてもつらかった」(三好徹『チェ・ゲバラ伝』文藝春秋、1971年)


 ゲバラが言った「アメリカ人の説明」とは日本滞在中に会ったスペイン系のアメリカ人が「芸者は売春婦」と言ったことを指すようだ。ゲバラの生真面目な性格が伝わってくるエピソードだが、酒を飲まないゲバラもこの時は日本酒を少したしなんだようだった。ゲバラの来日で会った日本人の印象は概ね眼が澄んだ静かな男というものだった。(三好『チェ・ゲバラ伝』)大阪からゲバラの希望で広島を訪れることになり、飛行機で岩国空港まで飛んで広島に向かった。アメリカが日本に残した大きな「傷痕」を見たいという思いもあったに違いない。


 2017年にゲバラが妻に送ったハガキが見つかり、「私の愛する人。今日は広島、原爆の落とされた街から送ります。原爆慰霊碑には7万8000人の死者の名前があり、合計は18万人と推定されています。平和のために断固として闘うには、この地を訪れるのが良い。抱擁を。チェ」と記されていた。通訳として同行した広島県庁職員の見口健蔵氏に「きみたち日本人は、アメリカにこれほど残虐な目にあわされて、腹が立たないのか」と英語で問いかけた。「ヒロシマを訪れてみて、戦争というものの悪、原爆の残虐さをつくづくと痛感 し、 これを使用したアメリカに憎しみを感じた」とも回想している。

ゲバラ、広島から妻に宛てたハガキ
https://www.hiroshimapeacemedia.jp/…/message003.html


 ゲバラには短い訪問ながらも、日本を精力的に見て回ろうとする真摯な姿勢や、また若い指導者としての新たなキューバの国づくりに対する情熱、バイタリティーもうかがえる。日本訪問の直前にはパレスチナのガザを訪問して難民たちの境遇に同情して、占領には抵抗しかないと説いたが、常に戦争や占領などの犠牲になる弱者に対する共感や同情をもっていた。その問題関心には日本人の多くが感じ取ったように政治や社会の変革への静かな闘志が見られ、実際日本の農地改革にも関心を寄せていた。中東イスラム諸国、どこを回っても(おそらく世界中)の若者たちにゲバラの人気があるのは、政治や社会の矛盾を正そうとしたゲバラの姿勢が、現在の若者たちが置かれている境遇や思いと重なるためだろう。
アイキャッチ画像はゲバラ
https://www.huffingtonpost.jp/entry/guevara_jp_5f2b936dc5b6b9cff7ed109b

ゲバラが撮った写真
チェ・ゲバラが1959年、広島の平和記念公園で撮影した写真。中央に原爆ドームが見える=©2017Centro de Estudios Che Guevara
https://mainichi.jp/articles/20170902/k00/00e/040/266000c
日本語記事
miyataosamuをフォローする
Follow by E-mail / ブログをメールでフォロー

If you want to follow this blog, enter your e-mail address and click the Follow button.
メールアドレスを入力してフォローすることで、新着記事のお知らせを受取れるようになります。

スポンサーリンク
宮田律の中東イスラム世界と日本、国際社会

コメント

タイトルとURLをコピーしました