重大な人権侵害である「冤罪」 ―袴田事件と古今東西の事例は訴える

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 昨年3月、東京高裁は「袴田事件」について再審開始を認める決定を行い、検察側の「証拠」が捜査機関のねつ造の可能性が極めて高いと指摘した。

 この事件については静岡地裁の元判事が信念に反する判決書を書いたとことを告白し、袴田巌さんの無罪を涙ながらに訴えた。真実はすぐそこにあるように思えるにもかかわらず、袴田事件はいまだに無実が最終的に認められていない。日本の裁判制度はどうしてこうも時間がかかってしまうのかと思ってしまう。

「袴田さんは無罪の心証」告白の熊本元裁判官
https://look.satv.co.jp/_ct/17409086

 袴田さんの無実は確実だと思われるのだが、日本ではこの種の冤罪が絶えない。1997年の東電女性社員殺害事件でネパール人のゴビンダ・プラサト・マイナリさんに無期懲役の判決が確定したものの、2012年11月に無罪判決が言い渡された。マイナリさんは袴田巌さんほど長期ではないが、無実の殺人罪で15年間も刑務所で過ごした。警察は、マイナリさんに対して日常的に拷問や虐待を繰り返し、弁護士との接見を妨害した。現在の日本で拷問などが行われたのは信じられない思いだが、日本の警察当局の外国人に対する差別や偏見が冤罪をつくり出したようで、日本の「恥」を世界にさらけ出すようだった。

ゴビンダ・マイナリさん、優しそうな顔をしていますね。このような人に拷問を行う取調官は知性に欠落していると思います。
東京高等裁判所は2012年11月7日、東京電力の女性社員殺害事件で無期懲役が確定していたゴビンダ・プラサト・マイナリさんに対し、無罪判決を言い渡した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000035.000005141.html

 世界史上で有名な冤罪事件は、フランスのドレフュス事件で、ドレフュス事件は、1894年に始まり、1906年まで継続した。1894年夏、フランス軍参謀本部からパリのドイツ大使館に送り込まれたスパイが、フランス陸軍の人物が書いたと思われるフランス軍の機密に関する文書を発見した。参謀本部付の砲兵隊大尉アルフレッド・ドレフュス大尉は、10月13日に逮捕され、1894年12月に軍の機密を敵対するドイツに漏洩した国家反逆罪として終身刑の有罪判決を受け、南米のフランス領ギアナ沖にあるディアブル島(悪魔島)に収容された。

ロマン・ポランスキー監督が描くドレフュス事件
https://lp.p.pia.jp/event/movie/231993/index.html

 彼が疑われたのは普仏戦争でドイツに奪われたアルザス地方出身のユダヤ人であるという理由が大きかった。差別や偏見が冤罪をつくり出すと主張される点では、日本にもいまだに決着していない狭山事件がある。1963年5月1日に下校途中の女子高生が誘拐され、身代金20万円が要求されたが、翌2日、身代金の受け渡しの日だったが、警察は取り逃がすという失態を演じ、4日に女子高生の遺体が発見された。同じ月の23日に別件逮捕で非差別部落出身の24歳の青年が逮捕された。社会で差別を受けている人間が犯人にされたという点でドレフュス事件に似通っている。

 ところで、安倍元首相や菅前首相たちが所属していた日本会議は南京虐殺を「世界に訴える日本の冤罪」としているが、虐殺された人数については日中の主張の間で開きがあるものの、虐殺があったことは日本の外務省も「日本政府としては、日本軍の南京入城(1937年)後、非戦闘員の殺害や略奪行為等があったことは否定できないと考えています。」と認めている。日本政府の公式的立場と、多くの政治家が属す組織の見解が異なることも近隣諸国に不信感を与えていることは事実だろう。これは「冤罪」と呼ぶにはふさわしくないし、「冤罪」と主張すること自体が日本の「恥」を世界に見せつけることになる。

 イスラム世界絡みの冤罪で真っ先に思い浮かぶのは対テロ戦争開始後に米国がキューバのグアンタナモ収容所に「アルカイダの容疑者」を送ったことだ。「容疑者」たちは裁判も受けられず、弁護士もつけられず、また水責めなどの拷問も受けている。しかもアルカイダと関係のない人物に対して米国はいっさいの謝罪をすることがなかった。グアンタナモでは対テロ戦争が開始された直後の2002年1月以来、779人が収容され、そのうちの600人が釈放された。拷問を苦にした自殺者は8人(「ロイター」による)、また2012年6月現在、拘留されていた者たちは169人で、そのうち半数は釈放されることが約束されたものの、実現されずにいた(「ニューヨークタイムズ」2012年6月24日)。グアンタナモ収容所は、収容者たちの米国への移送が議会によって反対されていることもあって、いまだに閉鎖されていない。

グアンタナモに送られた無実のイギリスのムスリムの体験 アマゾンより

 イスラエルは1967年の第三次中東戦争以降、延べでおよそ70万人のパレスチナ人たちを投獄した。(アルジャジーラの記事より)パレスチナ総人口の5分の1の人々がこの政治的拘留の経験があり、イスラエルの人権侵害の一事例と言われている。イスラエルでは議会が裁判所の決定を覆すことができるという法案をめぐって大規模な反政府デモが発生したが、そのような反政府デモも政治犯などパレスチナ人の人権は眼中になかった。

アイキャッチ画像は

証拠捏造はひどいですね
袴田事件、証拠「捏造」の可能性にまで言及した高裁決定…捜査当局に衝撃
https://www.yomiuri.co.jp/national/20230314-OYT1T50070/

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