この地は美しい血をどんなにたくさん飲み込んだことだろう
労働者の血、農民の血
戦争の原因である盗賊どもは絶対に死なない
あいつらは罪のない民しか殺さないからさ
その名は赤い丘、ある朝そう名付けられた
その丘によじ登った者はみな、雨溝の中に転がっていた
今ではそこには葡萄の木が生えて、葡萄の実がなっている
その葡萄でつくる赤ワインを飲む者は、仲間たちの血を飲んでいると感じるんだ
今ではそこには葡萄の木が生えて、葡萄の実がなっている
だけど私にはそこに仲間たちの名前の書かれた十字架が見えるんだ
これは、1919年につくられたシャンソン「赤い丘」(モンテユス作詞、ジョルジュ・クリエ作曲)の一節で、1950年代にイヴ・モンタンがリバイバル・ヒットさせた。
(イヴ・モンタンの歌は https://www.youtube.com/watch?v=hfC1c1s_v74 にある。)
この歌は、一部の権力者、特権階級のために死んでゆく労働者や農民の怒りや恨みを描いたもので、シャンソンのスタンダード・ナンバーとなった。第一次世界大戦で頂点に達する帝国主義戦争は、イデオロギー的にはナショナリズム、また植民地の獲得など経済的権益をめぐる衝突で、労働者・農民など一般庶民は当初は権力者たちにナショナリズムへの訴えなどに煽られて戦場に赴いたかもしれない。しかし、戦場の現実に触れるにつれて、戦争の汚れた本質に気づいていったと思う。

https://globe.asahi.com/article/11978660
5日、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの侵略行為は「新たなIS」と形容した。残虐な暴力行為で現地住民を屈服させようとし、またISはイスラムに、プーチン大統領はロシア正教会という宗教に暴力行為の正当性を求める点で似通っている。ISはカリフ国家、またプーチン大統領はロシア帝国というように、両者とも過去の栄光の復活を夢想する。
プーチン大統領の手法はこれまで書いてきたが、19世紀から第一次世界大戦に至る帝国主義のそれに酷似している。冒頭の「赤い丘」は第一次世界大戦最大規模の戦いであった「ソンムの戦い」を表現したもので、この戦いではイギリス軍45万人、フランス軍20万人、ドイツ軍50万人が戦死しているからいかに激戦だったかがうかがえる。帝国主義者たちのイデオロギーの中心にあったのは国家の栄光を訴えるナショナリズムのイデオロギーだったが、戦争は一部の人の経済的利益を代弁するものでもあった。フランスのルノー、イタリアのフィアット、ドイツのクルップ社、イギリスのウィリアム&フォスター社などは戦車、大砲、機関銃などの兵器の製造で莫大な利益を上げていった。イギリス・ウィリアム&フォスター社のマークⅠ戦車などは、イギリス軍、フランス軍、またドイツ軍と敵味方双方によって使用された。

https://www.artphotolimited.com/themes/concert-et-musique/musique-variete/musique-variete-francaise/yves-montant/photo/imago-images/yves-montand-et-edith-piaf-dans-le-film-chanson-of-love
Etoile sans lumiere, aka: Chanson der Liebe, Frankreich 1946, Regie: Marcel Blistene, Darsteller: Yves Montand, Edith Piaf Copyright: IFTN UnitedArchivesIFTN_14428jpg
まさに現在の軍産複合体の原初形態を見る思いだが、「赤い丘」の歌のように、戦争の原因であるプーチン大統領や兵器産業の首脳などは戦場で絶対に死ぬことはない。NATO諸国からウクライナへの兵器支援が相次ぐが、欧米やロシアの防衛関連産業が潤っていることは言うまでもない。
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