中村哲医師が伝えた洪水被害を軽減する日本の伝統的技術

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 パキスタンのシェリー・ラフマーン気候変動相は、昨年大規模な洪水被害が発生した際に、地球温暖化によって氷河が溶けているのが大洪水の原因だと述べた。夏が高温となった場合は氷河湖決壊洪水が起きるが、昨年は例年の3倍以上の洪水があったという。ラフマーン変動相はパキスタンの洪水の原因には地球の気候変動があるものの、パキスタンは温室効果ガスの排出という点ではアメリカや中国には遠く及ばないことを強調している。


 インド洋地域の気温上昇は世界の他の地域に比べると3分の1も高く、ベンガル湾の水温上昇が破壊的なサイクロンや大洪水の発生をもたらしている。温室効果ガスの排出を劇的に減らすことは世界的な急務であることは間違いなく、日本も迅速に対応する努力が求められている。


 日本は一昨年パキスタンから約9000トンの綿糸を輸入しているが、これはインドネシアに次いで第二位の量だが、今回の洪水でパキスタンの綿畑の45%が流されてしまった。綿糸の世界的な「争奪戦」が起こるだろうという専門家の見方もある。(日テレNEWSより)また、パキスタンは世界一のサッカーボールの生産国だから日本をはじめとして世界中のサッカーの競技や練習などにも影響が及ぶかもしれない。


 中村哲医師はパキスタンの隣国であるアフガニスタン東部で洪水被害に遭っていた。2013年12月17日付の「西日本新聞」で中村医師はその年の夏に起きたクナール川とカブール川の洪水について、原因は遅い降雪と気温上昇だったと述べている。特にその年の晩冬の降雪は2月下旬の春先と著しく遅く、4月に水かさが上がり始めて、5月には平年の夏のレベルに達するなど水かさが一気に上昇していった。

護岸用の蛇籠を修繕する中村医師
https://www.montbell.jp/generalpage/disp.php?id=438


 中村医師が洪水対策として考えたのは日本の伝統技術である蛇籠(じゃかご)と柳枝工(りゅうしこう)だった。蛇籠は鉄線を編んでカゴをつくり、その中に現地の石を積み上げてつくるもので、またヤナギの木は蛇籠の石の間に根を張り、蛇籠を補強し、堤防の強化に役立った。アフガン人たちは長い時間をかけ根気よくて絨毯をつくるが、そうしたアフガン人の器用さは美しい石垣をつくるのに役立った。中村医師は蛇籠をつくるアフガン人はすべて有能な石工だったと語っている。


 アフガニスタンに多いヤナギはコリヤナギという品種で、成長力が強くて速く、堅固な用水路を早くつくって農地に変えたいという中村医師の目標にかなうものだった。洪水の際には、ヤナギの枝葉が流れを弱めたり、河川からの土砂の流出を防いだりすることにもなった。また、ヤナギの景観は夏には人々に木陰を提供し、涼感を与えるものでもある。

蛇籠を重ねた水路壁と芽を出した柳
https://www.montbell.jp/generalpage/disp.php?id=438


 『ペシャワール会報』(No.145、2020年10月7日)では、2020年7月から8月にかけてナンガラハル州とラグマン州で100年に一度とも言えるほどの大洪水があったことをPMS(ピース・ジャパン・メディカルサービス)の現地スタッフが記事として伝えている。大洪水の後、河川から大石を取り除くと、中村医師のPMSが築いた用水路の両岸は蛇籠と柳枝工によってしっかりと保たれ、日本の伝統技術の機能や効果に現地の人々も驚き感激したという。現地の人々が自分たちで用水路を維持できる現地の素材と技術が求められるというのが中村医師の考えだったが、中村医師が伝えた蛇籠など日本の伝統技術と知恵はアフガニスタン東部の洪水に中で半ば永久的に機能し続けることだろう。

中村哲医師らによって柳枝工で整備された用水路
http://autobahn.blog.jp/archives/1036382519.html
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