真珠湾の記憶 ――米国も日本も求められる帝国主義戦争への反省

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「実戦を知らぬ将校が自己の名誉心を満足さすために、何も知らない部下を叱咤して戦場に駆り立てる傾向がありはしないでしょうか。実戦というものは残酷なものですよ。」――永井隆『長崎の鐘』

永井隆「長崎の鐘」
https://blog.goo.ne.jp/…/38773788e9d519f92b80f71d1925b350


 この一文を読んで防衛費増額や反撃能力を推進する政治家や、それを支持する人々は何を考えるだろうか。私たちは戦争体験者たちの記憶を忘れつつあるような気がしてならない。


 今日は日本軍が真珠湾を攻撃して太平洋戦争の戦端を開いて82年になる。8月15日が何の日かは知っている日本人は多いだろうが、「真珠湾攻撃の日は? 」となると答えられる日本人は途端に少なくなることだろう。

12月8日も尋ねればよい
http://livedoor.blogimg.jp/zitukk/imgs/c/9/c9085bb3.jpg


 真珠湾で攻撃されたほうの米国も日本と同様にその帝国主義戦争の反省を強調することはない。米国は米西戦争(1898年)に勝利すると、フィリピン支配を意図したが、フィリピン独立を目指す人々はゲリラ戦で抵抗した。米軍の最高司令官マッカーサー将軍(ダグラス・マッカーサーの父親)配下のジェイコブ=スミス将軍は「10歳以上はすべて殺すこと」という命令を下した。フィラデルフィアの新聞は、「米軍は犬畜生とあまり変わらぬと考えられるフィリピン人の10歳以上の男、女、子供、囚人、捕虜、……をすべて殺している。」と報じたほどだった。この米比戦争(1899~1902年)では20万人から150万人の文民が殺害されたと見られているが、いずれにせよ、大量の虐殺があったことは確かだった。米比戦争の結果、フィリピンにおける米国の植民地支配が確立されたが、米国がこのフィリピンにおける大量虐殺を省みることはほとんどない。

映画「トラ・トラ・トラ!」より
「トラトラトラや」
https://twitter.com/eigaoh2/status/1468563780745703432


 フランクリン・ルーズベルトは、日本政府の米国との関係改善の意向にもかかわらず、資源小国の日本経済がマヒするような制裁策を続々ととっていった。1939年に日本との間で1911年に成立した通商条約を廃棄した。また、1939年12月に日本に対する航空燃料と飛行機用の潤滑油の輸出が規制された。1940年10月16日には、くず鉄や鉄鋼の輸出を停止し、さらに1941年7月26日に米国は日本の在米資産を凍結し、日本との通商関係を事実上打ち切った。その一週間後、ルーズベルト政権は石油の輸出を停止した。こうした米国の強硬な対日政策にイギリスやオランダも従い、これら二国の植民地であった東南アジア諸国からの資源の輸出を停止させた。これらの米欧諸国の措置が日本経済にとって絶望的な見通しを与えることは明らかだった。日本は米国の目論見通りに真珠湾を攻撃して、米国は第二次世界大戦参戦の口実を得た。


 米日の帝国主義が衝突した太平洋戦争のフィリピンの戦い(1944~45年)は日本に奪われたフィリピンを米国が奪還する目的のものであった。太平洋戦争のフィリピン防衛戦で日本軍の戦没者の総計は51万8000人、そのうち戦闘による死者は35%から40%、残りの65%~60%は病没だが、そのうち悪疫による死者は半分以下で、残りは悪疫を伴う餓死であった。(吉田裕氏)日本軍にとってはまさに悪夢の戦場であった。それに対して米軍戦死者は4万人ちかく、またフィリピン市民の死者はおよそ100万人と見積もられ、現地フィリピンの人々に多大な迷惑をかけた戦争だった。


 太平洋戦争は日本の真珠湾攻撃によって戦端が開かれたものの、米国、日本、さらにはイギリスも含めて帝国主義諸国は、フィリピン、ベトナム、ミャンマー、中国などおびただしい数のアジアの市民の犠牲をもたらしたことに想いを至す必要がある。真珠湾攻撃は米国の政治家たちにまさに政治利用されてきた。1980年代にレーガン大統領はソ連を頂点とする東側陣営から「われわれは真珠湾攻撃よりも深刻な危機にさらされている。この国を防衛する力が必要だ。」と語り、1980年から85年の間に軍事費を35%増やした。真珠湾攻撃が軍事費の増額の口実になってはならないと思うが、日本の場合は戦争の惨禍の記憶を忘れ、安易な防衛費増額などあってはならない。

アイキャッチ画像は真珠湾攻撃
https://president.jp/articles/-/40991?page=1

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