「近藤さんのよせ書き」と、米帝国主義を批判したマーク・トウェイン

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 太平洋戦争のフィリピンの戦い(1944~45年)の末期、米兵に拾われたイラストがふんだんに描かれた寄せ書きには「近藤」という持ち主の名前が書かれ、その消息を尋ねるドキュメンタリーが「近藤さんのよせ書き フィリピン 戦場で拾われた記録」と題して一昨年12月にNHK・BS1で放送された。番組制作会社ディレクターの朝川昭史さんは、苦闘の末、北海道から出征した近藤伍長であったことを探り当てた。近藤伍長はマニラ東方高地で戦った重砲兵部隊に所属して戦没した。その探索の様子は朝日新聞でも昨年8月12日付の記事となった。
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15385972.html


 フィリピン防衛戦で日本軍の戦没者の総計は51万8000人、それに対して米軍戦死者は4万人近く、またフィリピン市民の死者はおよそ100万人と見積もられ、日本軍にとっては悪夢の戦場であり、また現地フィリピンの人々に多大な迷惑をかけた戦争だった。

日米市街戦で家も財産も破壊され、米占領地区に避難するマニラ市民
https://rekishi-memo.net/worldwar2/philippine_defense.html


 19世紀末に米国の「マニフェスト・デスティニー(明白な運命)」による西部への膨張政策は終わり、アメリカの領土は太平洋にまで達していた。セオドア・ルーズベルトなど米国の政治指導者は1823年のモンロー主義とは打って変わり世界における米国の役割の拡大を考えるようになった。1898年の米西戦争は、米国が植民地獲得の意図をもつ契機となり、米国はキューバを皮切りに、プエルトリコ、フィリピン、グアム、ハワイはアメリカの植民地となり、軍政が敷かれていった。こうした米国の拡張主義の大義となったのは、抑圧された、後進的な人々を救い、文明化するという「使命」だった。


 米国がフィリピンを植民地にした米比戦争は、フィリピン市民の20万人が亡くなったほどの“絶滅戦争”で、その残虐ぶりは対インディアン戦争よりもひどかったとされている。

米比戦争
https://pichori.net/Philippines/history/philippine_american_war.html?fbclid=IwAR2e7bpC_vrR65MvEzVWKeQKvpM-HrvuDut228AumpxnMDTBjx7dklEYDy0


 米国の著名な作家マーク・トウェイン(1835~1910年)は米西戦争中に「反帝国主義者連盟(Anti-Imperialist League)」に参加して、痛烈に帝国主義を批判するようになった。1900年10月15日付マーク・トウェインが「ニューヨーク・ヘラルド」に寄せた記事では次のように書かかれている。


 ここに 3世紀にわたって苦しんできた人々がいる、と自分に言い聞かせました。私たちは彼らを私たちと同じように自由にし、彼らに独自の政府と国を与え、米国憲法のミニチュアを太平洋に浮かべ、世界の自由主義国家群の中でその地位を占める真新しい共和国を始めることが私には、米国人に向けられた重大な使命のように思えました。
 しかし、それ以来、私はもう少し考え、(米西戦争の結果結ばれた)パリ条約を注意深く読んだところ、私たちが意図しているのは解放ではなく、フィリピンの人々を征服することであることがわかりました。私たちは、贖うためではなく、征服するためにそこに行ったのです。
 私には、これらの人々を自由にし、彼らの国内問題を彼ら自身の方法で対処させることが、私たちの喜びであり義務であるように思われます。だから私は反帝国主義者です。私はワシ(イーグル=米国)がその爪を他者の土地に立てることに反対します。

アマゾンより


 トウェインの『エディパス、世界帝国の隠された歴史』は、時代設定が2901年とされ、米国は専制君主のエディパス帝国に支配されている。この帝国を破壊しようとする活動家で、歴史家であるこの物語の語り手は、19世紀から20世紀初頭の歴史を書こうとしても、遠い昔に図書館も博物館も破壊されてその時代を知る文献がない。しかし、限られた情報で19世紀初頭の米国の歴史に何とかたどり着いた語り手は、19世紀の米国が変化と活気と自由に満ちた社会であったことを知ることになり感激する。マーク・トウェインがこの物語を書いたのは1902年で、米国が帝国主義の政策を追求し始めた頃だった。マーク・トウェインには米国はエディパスのような専制国家となり、自国民や他国の人々を抑圧するようになることへの危惧があった。


 フィリピンでの戦争は米国と日本の帝国主義がぶつかり合う戦場で、近藤伍長をはじめ無数の兵士、市民の命を奪った。米国の帝国主義が反省なく、第二次世界大戦後もベトナム、イラク、アフガニスタンなどで多数の人々が犠牲になった。日本が再び帝国主義に向かったり、あるいは帝国主義に追随したりして、近藤伍長のような戦没者を再び出すことがないことを願う。

寄せ書きには、イラストを添えたものが多い。当時人気だったキャラクター「フクちゃん」も登場
https://digital.asahi.com/art…/photo/AS20220805003565.html

アイキャッチ画像は 戦場で米兵が拾った「近藤さんのよせ書き」
https://digital.asahi.com/articles/photo/AS20220805003557.html?iref=sp_photo_gallery_prev_arrow&fbclid=IwAR0D50vWQVQTeQNLIBEJ3wSyEpCmo6OyQP4gRrQbNSvZ1O3sRtnOgj2rlYc

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