米国がイラク戦争でつくった体制は反米、反イスラエル ―イスラエルと関わった者は死刑となるイラク

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 イラクでは22年5月26日、イスラエルとの関係正常化を禁ずる法律が成立した。この法律は、クルド自治政府を含むイラクの国家公務員、私企業、メディア、また外国企業で働く者たちに適用するとされ、イスラエルを訪問した者には終身刑、イスラエルとの政治、経済、文化的関係を結んだ者には死刑の刑罰が下されることになった。どれほどの実効性があるのか、またパレスチナ国家を成立させるというパレスチナ人の目標や大義に寄り添う象徴的な意味や性格もあるのだろうが、刑罰の内容はかなり厳しい。

イラクでの反イスラエルデモ
2021年5月15日
https://www.reuters.com/world/middle-east/iraqis-hold-anti-israel-protests-after-call-by-cleric-militias-2021-05-15/

 米国がトランプ政権時代の2020年に、アラブ諸国ではUAE、バーレーン、スーダン、モロッコがイスラエルとの国交正常化に踏み切り、トランプ大統領は自らの外交力を誇り、中東和平を実現させたとまで言い切った。しかし、イラク議会の動きは、これらのアラブ諸国の動きを皮肉り、アラブ諸国の底流では依然としてイスラエルに対する反感が根強いことを示すものだった。

 2020年のイスラエルにすり寄るアラブ諸国の動きはパレスチナ人からはアラブ同胞への裏切りと強く反発された。スーダンを除いてはいずれも王政ばかりで、イラクで成立したイスラエルとの関わりを禁ずる法律は、アラブの支配層の意図と、アラブの一般の国民の想いがいかにかけ離れているかを示すことになった。UAEは米国の高性能な兵器を購入することを望み、またモロッコの王政は西サハラ問題で米国の支持を獲得することを考えた。

 イラクで成立した法律は「シオニストの政府(イスラエル)」とコミュニケーションをもつことや、シオニスト、あるいはメイソン的な考えや原則、行動を、会議、集会、出版物、ソーシャルメディアなどを通じて普及させることを禁じている。この法律は1969年に成立したイラクの刑法を発展させたもので、この刑法は2003年のイラク戦争で停止されたものの、あらためて更新、発展させて施行されることになった。

誰がイラク戦争に責任があるのか?
https://eslkevin.wordpress.com/2016/05/11/islam-and-arabs-need-to-work-out-once-again-the-old-covenant-structures-of-the-semites/

 米国、特にネオコン勢力はイラク戦争で、イラクをはじめとするアラブ諸国が親米で、親イスラエルの姿勢をもつことを目指したが、そのような目論見は見事にはずれることになった。ネオコンは、イラクのシーア派が権力を掌握すれば、スンニ派のパレスチナ人たちを支援することはなくなり、イラクはイスラエルに接近していくと考えた。ネオコンは米軍の軍事占領に反発するイラクのナショナリズムを予想できなかったが、「対イスラエル交流禁止法」はあらためて米国のイラク戦争の意義を問うこととなった。米国のイラク戦争は親イランのシーア派勢力の台頭を促すことになり、地域でのイランの台頭を封じるという米国の目標とは真逆の結果をもたらした。

ムハンマド・アル=ハルブースィー・イラク共和国国民議会議長
https://twitter.com/mustafa_habib33/status/1040927308293525504?lang=de

 ムハンマド・アル=ハルブースィー・イラク共和国国民議会議長は、この法律がイラク国民の意志を反映し、シオニスト政府との交流を禁ずる画期的ものだと誇った。法案が成立後、議会ではそれを祝うムードが支配的となり、ハルブースィーの進歩党、またマスード・バルザーニーのクルディスタン民主党によっても支持されるなど、イラクの政治勢力を横断的に結集して成立したもので、あらためて米国の中東地域での影響力の低下を印象づけることになった。ロシアのウクライナ侵攻で手一杯な米国はこのイラク議会の動きを封じることができなかった。

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