イスカンダルは地球を救った英明な哲人王 -ロシアの殺戮兵器とは違う

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Translation / 翻訳

 松本零士の『宇宙戦艦ヤマト』は、地球がガミラス帝国の攻撃を受け、遊星爆弾による攻撃を受けると海は枯れて地球は赤茶けた姿に変わり果て、放射能汚染で地上の生物が死滅していく。現代世界の喫緊の課題である環境問題を表しているようなストーリー展開だった。


 地球が危機的状況に陥ると、大マゼラン星雲にあるイスカンダル星から「放射能除去装置 コスモクリーナーDを受け取りに来るように」というメッセージがあり、宇宙航海に必要な波動エンジンの設計図が送られてきた。そこで、第二次世界大戦末期に九州沖の海底に沈められた戦艦大和に似せて造った「宇宙戦艦ヤマト」にこの波動エンジンをとり付け、コスモクリーナー受領のためにイスカンダル星までの往復の旅に出かけるが・・・。


 地球を救うイスカンダル星の「イスカンダル」とは、アレクサンダー大王(アレクサンドロス3世)のペルシア語、アラビア語の呼称である。アレクサンダー大王の英雄伝説から中東や東南アジアでは男子の名前としても定着した。イラン(ペルシア)の詩人フェルドゥスィー(934~1025年)やニザーミー(1141~1209年?)の作品にも「イスカンダル・ナーメ(イスカンダルの書)」があり、イスカンダルは哲人王、英雄など理想的な君主として描かれている。


 イランなどでは、イスカンダルは諸民族や諸文明との共存を目指し、平和や善政を実現した英明な君主とされている。ロシアは破壊と殺戮の道具であるミサイルに「イスカンデル」と名づけたが、世界のイスカンダル(アレクサンダー大王)大王への認識とは明らかに異なる。ユダヤ教ではイスカンダルは神の国を地上にもたらすメシアとれ、またキリスト教ではイエス・キリストの先駆者と見なされた。「宇宙戦艦ヤマト」に登場するイスカンダル星も、こうした理想的な君主としてのアレクサンダー大王認識の延長として名づけられたのだろう。


「自我の意識は個人から集団社会宇宙へと次第に進化する。この方向は古い聖者の踏みまた教えた道ではないか。新たな時代は世界が一の意識になり生物となる方向にある。正しく強く生きるとは銀河系を自らの中に意識して、これに応じていくことである。」(宮沢賢治『農民芸術概論綱要』)


 プーチン大統領のロシアによるウクライナ侵攻は、この世界が一の意識となる宮沢賢治の世界観、宇宙観とは真逆に偏狭なナショナリズムを追求し、銀河系を意識した正しい生き方とは到底思えない。


 ちなみに、オスマン帝国最初の首都であったトルコ・ブルサに、ケバブにヨーグルトとトマトソースをかけたイスカンデル・ケバブがという料理があり、日本のトルコ料理店でも食べることができる。


 環境破壊や、人類滅亡の危機を強調した『宇宙戦艦ヤマト』のテーマと通じる歌に「西暦2525」年があった。これは1969年にゼーガーとエバンズで大ヒットしたが、和訳は下の通りだ。
西暦2525年
もし男がまだ生きているなら
もし女が生き長らえるなら わかるだろう
 (中略)
西暦5555年
腕は 動かず横に垂れたまま
脚は 何もすることがなくなる
機械が代わってやってくれる
(中略)
西暦9595年
どうだろうか まだ人類は生きているだろうか
人類はすべてこの地球の与える物を自分の物にして
何も返してはいない
  
 ロシアは核兵器で恫喝し、北朝鮮は核実験とミサイル発射を繰り返す、ロシアのウクライナ侵攻以前から深刻な干ばつによって世界の小麦生産は動揺し、途上国の飢餓をもたらした。世界的な飢餓はウクライナ戦争でいっそう深刻となっている。人類は2525年の時点ですらその生存が危ういなどという事態にならなければよいが・・・。

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