米空軍高官が内部メモで2025年に中国が台湾に侵攻することにより米中が軍事衝突する可能性があり、中国との戦争に備えた準備を急ぐように指示したことがNBCテレビの報道でわかった。24年に米大統領選と台湾総統選があり、米国の注意がそがれている間に中国が台湾に侵攻するのだという。イラク戦争の時に米国がイラクの大量破壊兵器製造疑惑をでっち上げて、戦争に突き進んだことを彷彿させる。
米国は中国との戦争にのめり込んでいるように見えるが、言うまでもなく2025年は来年で、戦争が差し迫っているかのようだ。岸田首相はそのために米国と歩調を合わせて「反撃能力」や「防衛力拡大」を急いで閣議決定したのかとも思う。戦争になれば、米国の軍需産業には多大な利益がもたらされる一方で、日本の自衛隊員や米兵に戦死者が出る。それでも岸田首相は米国との戦争と一体になり「反撃能力」が必要だと言うのだろうか。岸田首相たち日本の政治家たちには最前線で戦い、血まみれになって犠牲になる自衛隊員への同情や悲惨な戦場に対する想像力に欠けている。台湾海峡危機を強調する米国政府や米軍の様子では、2025年は、1945年の敗戦後日本人に初めて戦死者が出る年になるかもしれない。しかし、台湾の総統選があっても中国が台湾を攻撃する気配はまるで感じられない。
チリの詩人で外交官、またノーベル文学賞を受賞したラルフ・ネルーダは、1946年に当時のヴィデラ大統領が米国への「奉仕政策」をとり、祖国の利益と国民の信頼を裏切っていると議会で訴え、大統領弾劾の声を上げ、そのために地下活動を余儀なくされた。私にはネルーダが告発したヴィデラ大統領と岸田首相が重なって見える。
「僕は新しい戦場に、君から教えられた信念、キューバ国民の革命精神、神聖な仕事をやり遂げるという覚悟を携えて行こう。帝国主義のある所なら、どこででも闘うためにだ。」(チェ・ゲバラ『カストロへの別れの手紙』
ゲバラが意識した「帝国主義」とは米国であることは言うまでもない。「帝国主義」は軍事力による領土の膨張と資源獲得の現象で、ヨーロッパでは19世紀後半から第一次世界大戦まで見られたが、ゲバラが強く感じた米国の帝国主義は中南米諸国に対する米国の軍事的・経済的影響力による介入政策にほかならない。米国は中南米諸国を「米国の裏庭」と見なして、主権を無視する介入を行い、多くの国で弾圧的な右翼軍人政権と結託して自国の利益を守ろうとした。ネルーダの国チリではCIAが民主的に選ばれたアジェンデ政権をピノチェト将軍ら軍人の協力を得て打倒した。ゲバラの「処刑」もCIAに命令されたボリビア軍によるものと、ボリビアのエボ・モラレス元大統領(在任2006~19年)は語っている。
ネルーダはアジェンデ政権打倒のクーデター直後に「腹黒い奴ら」という詩を書いた。その一部だが祖国を米帝国主義に売る人間に対する激烈な怒りが表現されている。
ニューヨークの狼どもにけしかけられた裏切者ども
わが人民の汗と涙を絞りとり
わが人民の血で汚れた機械ども
米国のパンと空気を売りこむ売春屋ども
淫売宿のボスども ペテン師ども
人民を拷問にかけむちうち飢えさせる法律しかもたぬ死刑執行人ども!
(1973年9月15日)
ネルーダやゲバラが告発した米帝国主義による戦争が東アジアで発生し、日本人に死者が出るような国にした人間たちの責任は実に重いと言わざるを得ない。「偽りを述べる者が愛国者と讃えられ、真実を語るものが売国奴とののしられる世の中を私は経験してきた(中略)それは過去のことだと安心しれはおれない。つまりそのような先例は将来も同様な事象が起こり得ることを示唆している。」(三笠宮崇仁親王『古代オリエント史と私』1984年)歴史学者のこの言葉を借りれば、「偽りを述べる者」たちや真実を語らぬ「売国奴」らによって日本は危険な状況に追い込まれている。
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