日本の作家たちが語る戦争の記憶

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Translation / 翻訳

 作家の五木寛之は、「悲惨な戦争の記憶こそ『相続』しないといけない」というインタビュー記事の中で、「私が、おぼろげに記憶している昭和十二年の南京陥落のときの、国民の熱狂ぶりを伝える昭和史の本はほとんどありません。リオのカーニバルどころではない、狂乱の祭典だったのです。」と述べている。ロシアがウクライナに侵攻し、イスラエルはガザを攻撃する。ロシアやイスラエルの国民は狂乱状態になっているだろうか。一部はそうに違いないが、プーチン大統領やネタニヤフ首相など為政者はそれを狙って危機を喧伝しているようだ。

五木寛之
https://www.bunshun.co.jp/mag/ooruyomimono/ooruyomimono0907.htm?fbclid=IwAR2Px0JLsyE2zWMtmAGgpt1DfrH1PkT2WoaoeQ-lrCaYyQadUud_ptLGsTQ


 塩野七生によれば、熱狂した民衆が「神の声を聞いた」と信じて「民衆十字軍」でエルサレムをめざしたのが十字軍の始まりだった。「熱狂」はウクライナ側にもあった。ウクライナの極右の呼びかけに応じて2014年のクリミア半島併合、チェチェン制圧、さらにはスターリンの強制移住へのリベンジをと国境近辺に集まるイスラムの宗教的背景をもつタタール人やチェチェン人の武装集団もいた。アメリカも危機を喧伝していたように見え、アメリカの軍需産業レイセオンのCEOなどはウクライナの戦争やや南シナ海の危機から利益を上げることを期待する発言をしていた。


 「民衆が何も考えないという事は、政府にとってなんと幸運な事だろうか」 -アドルフ・ヒトラー
 ウクライナの緊張で次のような野坂昭如の言葉を思い出した。五木寛之と同じように、記憶の相続を訴えている。


今改めてあの戦争及び戦後の日々を顧みてみることは
何も特別なことじゃなくて、僕は折に触れて
顧みるべきだと思うんです。毎日毎日のことについて
結局はもう二度とああいう事は起こっちゃいけない
世界のどででも起こっちゃいけない


 ウクライナやガザでの戦争では、野坂氏原作の映画「火垂るの墓」の幼い妹のように、飢餓で亡くなる子供もいるだろう。「火垂るの墓」について野坂氏は「幼い妹の世話は父や母のように出来ない、妹に食べさせるつもりの食糧まで自分が食べてしまい生後一年半の妹を死なせてしまったと現在でも悔やんでいるのです。妹が自分の手の中で死んでいったこと、亡骸を自分で火葬したこと、その骨をドロップ缶に入れていたこと、この辺りのエピソードは全部実話です。」と語っている。

この世代がいなくなって寂しい。戦争を知る世代だった。
https://plaza.rakuten.co.jp/nailsmell/diary/200606050001/


 野坂は、次のように日本の戦中の記憶からイラク戦争を表現している。
野坂昭如メールマガジン(2003/4/3号)


 「イラク戦争」と、マスメディアは呼ぶ。だが、宣戦布告ナシだし、昔の大日本帝国に倣えば、「イラク事変」そして正確には、「イラク侵略」である。
(中略)
 15、6歳の少年が自爆テロを行う。日本の評論家いわく、「こういうことをさせる国ですから」と憮然たる面持ち。オイオイ、はばかりながら私、58年前の今頃、黄色火薬の袋を抱いて、鬼畜アメリカの戦車に接近、放り投げる訓練を行ったよ。14歳だった。
 「聖戦」に生命を捧げれば、アラーの祝福をさずかる、だから喜んで「自爆」する。言葉通りには受取らないが、少なくともぼくは他人事には思えない。当方、「御国」のために生命を捧げれば、「神」になれた。
 某TV局の街頭インタビュー、若い女性3人に、今の「戦争」について訊く、「えっとォ、ハワイとアメリカ、ちがう?」「アメリカとヨーロッパの、ドイツかフランス」「日本じゃないよね」。こりゃもう立派、TVも観てないらしい。リッパリッパ、せいぜい青春を楽しめ、恋せよ乙女。

沖縄の反戦歌 アマゾンより


 今、日本の乙女にガザ情勢について尋ねれば、やはり「日本じゃないよね」という答えが返ってくるのだろうか。日本人に戦争の記憶が相続されていれば、もっと「戦争反対」の声が聞こえてきそうだが、テレビ・ニュースのトップは大谷選手のキャンプインだ。

アイキャッチ画像は https://www.ghibli.jp/works/hotarunohaka/ より

李香蘭(左)
https://bunshun.jp/articles/photo/32337?pn=9
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