イスラム世界との摩擦を回避するためにアラブ・イスラム文化の学習の必要性を説く英国の国王

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 英国の国王チャールズ3世は難民申請者をルワンダに強制送還するという英国政府の提案を嫌っていることを明らかにし、彼の戴冠式では宗教の自由と多様性が前例がないほどに強調された。英国社会の多様性を擁護することを訴え、戴冠式にはヒンドゥー教、ユダヤ教、仏教、シーク教、イスラムの指導者たちも参加した。英国が白豪主義の国オーストラリアやアパルトヘイトの国・南アフリカをつくったことを考えると、イギリスは多様性をもつ国に大きく変容している。


 英国を構成するスコットランドではパキスタン系のムスリムの第一首相が誕生し、また英国政府ではスナクというヒンドゥー系の首相が内閣の首班として統治を行っている。


 チャールズ3世は、イスラムについてはアラビア語を習得して『クルアーン(コーラン)』を読み、イスラムの理解を行い、またイラク戦争に反対して、サミュエル・ハンチントンの『文明の衝突』に激しく反発した。


 皇太子時代の2020年にパレスチナ・ベツレヘムを訪れると、チャールズ3世はパレスチナ人たちの置かれている境遇に深く同情し、将来、パレスチナ人たちに自由、公正、平等の権利が与えられることを強く望むと語った。イギリスの王族が明白にパレスチナ人たちの境遇に同情するのは初めてことだったが、パレスチナ人たちの苦難を見続けることは私の心が張り裂ける想いになるとも語った。

ヨルダン川西岸ベツレヘム市街を歩く
2020年1月
https://www.bbc.com/news/uk-51236905


 この訪問でチャールズ3世はベツレヘムでマフムード・アッバース・パレスチナ自治政府大統領やキリスト教の聖職者たちとともに、エルサレムのオリーブ山にある父方の彼の祖母アリス・オブ・バッテンバーグ(ギリシャ王子アンドレアスの妃。イギリス王配エディンバラ公フィリップの母)の墓参りも行っている。


 チャールズ3世は、イスラエル・パレスチナ紛争がイスラム世界の敵意の淵源になっていると考え、パレスチナ問題の政治的解決こそが国際的テロリズムを抑制するために必要と考えている。アルカイダ指導者のオサマ・ビンラディンは1998年にパレスチナ問題について次のように述べた。


「かりに(湾岸戦争など)戦争の背景にある米国の目的が宗教的、経済的なものであるならば、それはまたユダヤ人のちっぽけな国家の利益となり、そのエルサレムの占領と、パレスチナのムスリムの殺害から注意をそらすことにある。


このことの最もよい証拠は、(イスラエルの近隣で)最強のアラブの国イラクを破壊しようと切望していること、イラク、サウジアラビア、エジプト、スーダンのような地域の国々を小さな紙片のように砕こうと努め、アラブ国家の不統一をもたらし、弱体させることで、イスラエルの生き残りとアラビア半島に対する残酷な十字軍の占領の継続を確実にしようとしていることである。」


 こうしたビンラディンの発言は、チャールズ3世の観察が正しいことを裏付けている。パレスチナ問題の公平で、公正な解決こそが中東地域の恒久的な平和に役立つことは明白だ。チャールズ3世は2018年6月に息子のウイリアム王子をチャールズ皇太子(当時)の平和特使として、パレスチナに派遣したこともあった。しかし、英国政府は王族の政治への不介入を理由にウイリアム王子が平和使節の役割を担うことに難色を示し、平和特使としての役割を放棄せざるを得なくなった。

ヨルダン川西岸ベツレヘム聖降誕教会で。キリスト教各派の代表たちと。2020年1月24日。
https://www.thetimes.co.uk/article/prince-charles-offers-strong-message-of-support-for-palestinians-in-bethlehem-dq600wqtp?fbclid=IwZXh0bgNhZW0CMTAAAR3Fa3yqOXivorTMRNXeDe0rF_jdsmlsu851In1NyNoxKHIRAkNeJsyLERM_aem_Ae5Fu9cyJmv3TPXUuYFFpQxvj3kVkPt_8yuXler5MRxI8PKAsh6RbrR3RVo9R4lfLIRafNJCaZJvowg3TQJK122Y


 チャールズ3世はイギリスが2003年のイラク戦争に参戦することに強く反対し、ブレア首相が、チャールズ3世が良好な関係を築いてきたアラブの指導者たちと十分な協議を行うべきだったと説いた。


 また、イラクを侵略するような事態になったことは、アラブ文化への理解の欠如がその一要因でもあると考えていた。中東地域は部族への忠誠心が支配する地域で、西欧のような民主主義は役に立たないとチャールズ3世は考えている。ブレア首相が米国のブッシュ大統領の意見ばかりに耳を傾けたことがイラク参戦という取り返しのつかない誤りを招いたと主張した。


 チャールズ3世は信頼できる周辺の人々にはブッシュ政権を「恐ろしい」と話し、主体性のないブレア首相をブッシュの「プードル」と形容した。チャールズ3世はブッシュ政権のコンドリーザ・ライス国務長官が中東イスラム地域にあまりにも無知であることに軽蔑の念すらもっていたと言われている。チャールズ3世はフランスやベルギーでイスラムの女性が着用するベールが禁じられていることにも反対の意を表明し、また彼と湾岸の王族との友人関係を通じてイギリス製の武器が売却されることにも反対することを表明している。イスラムにはキリスト教にはない生きる知恵や方途を与えてくれるというのがチャールズ3世の考えで、またユダヤ教も研究するチャールズ3世は、ユダヤ、イスラム、キリスト教の間では共通の教えが多々あることを強調している。

ブッシュ大統領を好まなかった
2003年11月、ヒースロー空港で
https://www.middleeasteye.net/news/prince-charles-opposed-iraq-invasion-sympathetic-palestinians-says-new-book?fbclid=IwZXh0bgNhZW0CMTAAAR1cBPTwvUe4o01NijH2nS0j8oCiXPtEpBQw-Fi3MNiXVHZ8EyxdN1phu2U_aem_Ae4KybgefKJ0b5fiay2EbLl2SEfI5MX8U3nC2a9kbHiJNL7d5SgFyuHqf-h1igES1DFTChT9LCv7dKmjSQ2d_4WN


 英国はパレスチナ問題に道義的責任があるが、チャールズ国王のアラブ・イスラム観がパレスチナ和平が好ましい方向に向かうことに貢献すればと思う。イラク戦争を「妥当だった」と未だに発言する日本の岸田首相もイスラム文化を正確に学んでほしいものだ。

アイキャッチ画像はチャールズ皇太子
サウジアラビアのアル・ウラーの遺跡で
サウジアラビアのスルタン・ビン・サルマン王子と
https://www.middleeasteye.net/news/uk-police-investigating-bid-honours-citizenship-saudi-national?fbclid=IwZXh0bgNhZW0CMTAAAR34_blt1vrF0EJUo1kyRq8p_5PG6hahqfRRV3h2uEWsp3-F2JVn_7NZNXg_aem_Ae68iyK–ncBm6h6P_NYBIQz5jSX6oY4eqhU5NFj97yQjlVUbY3GpyHGeMrYQO0kYdLe5jRcPoOS1vh4PHU5e20b

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