無知と差別の壁を打ち破ろうとしたベルトルッチ監督

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 イタリアの映画監督ベルナルド・ベルトルッチ氏(1941~2018年)アカデミー賞9部門を受賞した「ラストエンペラー」が有名だが、個人的には5時間16分に及ぶ、ロバート・デ・ニーロ主演の「1900年」(1976年)が強く印象に残っている。


 ベルトルッチ監督は、2014年にノーベル平和賞受賞者サミット賞を受賞したが、その理由は、世界の悲劇の歴史を生き生きと今に伝えたというものだった。「1900年」は、イタリア北部で同日に生まれた地主一族のアルフレードと、その地主一族が経営する農園の小作農の息子オルモをめぐってストーリーが展開していく。20世紀前半にイタリアでファシズムが台頭する中で主人公たちの育っていく様子が、イタリア北部の濃密で、美しい自然の中で語られる。ベルトルッチ監督は、無知と差別の壁を打ち破ろうとし、人間の生きる権利を強調し、「抑圧」を否定していった。

ベルトリッチ監督
https://matomedane.jp/page/18325/t_image/378211/1


 ベルトルッチ監督が訴えようとしたテーマは、移民を排除し、「壁」を建設しようしたアメリカのトランプ前政権の姿勢、ヨーロッパでの極右の台頭、パレスチナ人に対する「アパルトヘイト体制」など、21世紀になっても見られる、古くて新しいもので、現在の世界でも見られる「ファシズム」的現象に警鐘を鳴らすものでもある。

 第一次世界大戦後のイタリアは、途方もないインフレで国民の生活は破綻し、政府への広範な不信が広がっていた。社会主義者たちはストライキなどで工場を占拠し、ブルジョワ保守層はロシア型の革命が起きるのではないかと不安を抱くようになった。イタリアのファシズムを推進したムッソリーニは、1920年代から組織化され、社会主義者たちを暴力的に襲撃した「襲撃隊」という民兵組織を傘下に置き、それをファシスト運動の母体として1921年10月に「全国ファシスト党」を結成した。ファシスト党は1922年10月28日に「ローマ進軍」を行い、これに圧倒された国王はファシスト党に組閣を命じることを余儀なくされた。ファシスト党はローマ帝国の栄光の復活を訴え、農民運動や労働運動を暴力で弾圧して、ブルジョワ保守層や中産階級の支持を得ていった。

映画「1900年」より
ロバート・デ・ニーロ
https://entertainment-focus.com/2016/04/11/win-1900-novecento-on-blu-ray/?fbclid=IwAR3_V0FIYLYAaiCepz2Y-mDuPfk6tisy1fuDAOWuIMHZobp9OnAPDGOC_ss

 イタリアの総選挙でジョルジャ・メローニ党首(45歳)の「イタリアの同胞」が第一党となった。この政党はムッソリーニの一部の親族が指導的立場にあり、ネオ・ファシスト、ポピュリズム政党などと形容されている。イタリアの利益をヨーロッパのそれよりも優位に置き、不法移民に対する「寛容ゼロ」の主張を行う。「イタリアの同胞」の勝利は反移民(主にムスリム移民だが)を背景にするヨーロッパの右傾化の傾向を示している。イタリア各地では映画「1900年」のように、ポピュリズムが浸透するようになっている。

 同様にイギリスではインド人移民の間で、ヒンドゥー至上主義が強まり、インドのモディ首相の出身組織である極右の「民族義勇団」がイギリスに住むインド出身のムスリムを襲撃するようになった。このヒンドゥー至上主義の組織は20世紀のファシズムをモデルに結成されたものだ。「民族義勇団」のメンバーがガンジーを暗殺したが、モディ首相の「インド人民党(BJP)」は「民族義勇団」の政治部門だ。こうした移民の間の暴力の応酬もヨーロッパの「イタリアの同胞」のような白人至上主義や極右の台頭を促進する要因になるに違いない。


※アイキャッチ画像は「1900年」のオープニングのタイトル曲が流れるバックに映し出される印象的な絵はG. Pellizza da Volpedo作のIl Quarto Stato(第四身分)という作品。作者のヴォルペードは19世紀末の農民の暴動に触発されて、この絵を描いたという。「農民讃歌」なこの映画の世界観のモチーフと言える絵画です。
http://blog.livedoor.jp/aara/archives/50053163.html

「ラストエンペラー」
https://www.fdtimes.com/wp-content/uploads/2016/12/47-TV-Full-screen-version-The-last-Emperor-Storaro.jpg
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