ロシアのプーチン大統領のウクライナ侵攻、またアメリカのトランプ大統領のイラン核合意からの離脱ややエルサレムへの米国大使館移転などは、国際協調を無視した自国ファーストの考えで、このような国家至上主義では中東や東欧など世界の平和を築くことは到底できない。
尾崎行雄は1919年に第一次世界大戦後のヨーロッパを視察し、「戦争は勝っても負けても悲惨な状況をもたらす」と平和主義、国際主義の必要を説いた。「国家至上主義は利己的で、狭い利益にとらわれた島国根性」「国家同士が互いに自国の利益独占を求めれば、当然そこに衝突が生じる。それではいつまでたっても戦争はなくならない。今求められるのは、国家至上主義ではなく国際協調主義であり、愛国心ではなく人類愛である」と主張した。彼の主張は、アメリカ合衆国第28代大統領で、軍備の縮小、植民地問題の公正解決、国際平和機構の設立を説いたウッドロウ・ウィルソン(1856年~1924年)の考えにも通底するものがある。

―ウッドロー・ウィルソン
北朝鮮が核兵器をもち、それでアメリカを標的にできる大陸間弾道弾をもつが、アメリカは北朝鮮についてはソフトな姿勢を示したり、無関心な態度に終始したりするが、アメリカに対する軍事的脅威がないイランには異様に強硬な姿勢をとってきた。トランプ政権で大統領補佐官などを務めたジョン・ボルトン氏は、長い間イラン攻撃を提唱し、イスラムとマルキシズムの折衷を説く、アメリカの価値観と合わないようなイランの反体制組織ムジャヒディン・ハルクとも密接な関係を築いてきた。バイデン後に共和党政権が成立すればまたトランプ政権と同様なイラン政策を追求するに違いない。
トランプ政権はハナからイランが新たな核交渉に乗ってくることを期待していないかのようだった。イスラエルの国益を擁護する教義をもつ福音派の信徒であるポンペオ元国務長官にしろ、軍産複合体と密接な関係にあるボルトン補佐官にしろ、中東地域でイランの影響力がイスラエル、サウジアラビア、エジプトに優るようなことを望んでいなかった。イスラエルがさらにパレスチナ人の人権を侵害しようが、これら三国がシリアの反アサドのイスラム武装集団を支援しようが、サウジアラビアがイエメンの人道危機をもたらそうが、それらを非難することはまったくなかった。
トランプ政権の国際協調を無視した中東政策、またバイデン政権によるアフガニスタンからの一方的撤退は中国がサウジアラビアとイランの国交正常化の仲介を行うなどアメリカの影響力は中東地域で大いに退潮することになっている。中東政策で失敗したアメリカはウクライナ問題ではロシアに異様に厳しい姿勢をとっている。その結果、トランプ政権が離脱したイラン核合意に復帰する様子がまるで見られない。
コメント