イスラムの建築様式を採り入れたワールドトレードセンターは世界宥和のシンボルだった

日本語記事
スポンサーリンク
Translation / 翻訳

「映像の世紀バタフライエフェクト 9.11同時多発テロへの点と線」(NHK)は、911の同時多発テロに至る人物たちや、また建築の革新、旅客機の進歩などがいかに911の事件、ワールドトレードセンターの崩壊に集約されていったかという内容だった。米国の資本主義の象徴であり続け、9.11の同時多発テロで崩落したワールドトレードセンターの建設を推進したのはロックフェラー財閥だった。資本主義の優越性を示したかったロックフェラー財閥は「World Peace through Trade(自由貿易を通じた世界平和)」、つまり自由な貿易こそが世界を豊かにし、平和をもたらすという理念を掲げていた。

ミノル・ヤマサキ氏(1912~1986)
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/c6d1743024f68c71d2a83a195a56b5be228eecec


 サウジアラビアでは石油で得た富で、多くのモダンな建物が建設され、厳格なイスラムの宗教原理に訴えながらもその社会は欧米化され、ある意味でいびつな社会発展を遂げるようになった。建設業でメッカのモスクの改修など宗教的建築の事業を手掛けたムハンマド・ビンラディン(オサマ・ビンラディンの父)はサウジアラビア有数のゼネコンに自社を仕立てていく。


 日系2世の建築家ミノル・ヤマサキ氏はダーラン空港、サウジアラビア通貨庁の設計などを任される。彼はアラブ・イスラムの要素を多く採り入れたが、これぞアラブ建築と国王から絶賛されるほどサウジ社会にふさわしいモダンな建築物をつくり上げていった。これらの建築物には尖塔アーチなどアラブ・イスラム世界で生まれたイスラムの建築様式が随所に見られた。尖塔アーチは、イタリア・アマルフィの大聖堂、ベネツィアのサンマルコ寺院などヨーロッパの著名の建築で使われてきたが、ヤマサキ氏はモダニズムとイスラム建築を融合させることを考えた。

ワールドトレードセンタービルのイスラム建築様式
https://www.archdaily.com/504682/ad-classics-world-trade-center-minoru-yamasaki-associates-emery-roth-and-sons?fbclid=IwAR1EcqyAfgkcdBAqhQqvj0G6vTATtoFz8AA5LvywkpCckK3LzqqHkXeP5x0


 イスラム建築に感銘を受けたヤマサキ氏は、ワールドトレードセンターの設計でも、その様式を採り入れていくことになる。ワールドトレードセンターの二つのタワーに隣接するプラザはイスラムの聖地メッカに倣った空間をつくることが考えられ、周辺のウォールストリートなどの雑踏からビジネスマンたちが精神的に解放される場所、空間をつくろうとした。プラザにはイスラム世界では好まれる泉を模した噴水や、広場の中心からは放射線状に広がるアラベスクの模様が描かれていた。


 しかし、そのワールドトレードセンターがオサマ・ビンラディンなど過激派の憎悪の対象となり、破壊されることになったことは何とも皮肉なことだった。ワールドトレードセンターでは、1993年にも過激派の爆破テロが発生したが、1993年のテロの実行犯の一人は「無実の人々や民間人を殺すことをアメリカはテロと呼ぶ。このテロリズムを最初に発明したのはアメリカだ。我々は千年かかってもあの悪魔の塔を倒す。」(番組より)と「アメリカのテロリズム」を象徴する建造物となっていた。

ワールドトレードセンタービル・プラザの噴水
https://www.thoughtco.com/the-twin-towers-178538


 ロックフェラー財閥は「World Peace through Trade(自由貿易を通じた世界平和)」を訴えたが、アメリカ資本主義の活動は中東イスラム地域では現地の多くの人々に恩恵をもたらすことなく、また支配層の腐敗を招き、貧困層からは憎悪の対象となっていた。また、アメリカ資本主義がもたらしたアメリカ文化はイスラムの清廉な価値観をも損なうものと考えられるようになる。ミノル・ヤマサキ氏は、ワールドトレードセンターは「威厳や誇りを持ちながらもアメリカが信じている人間性や民主主義を象徴するものであるべきです」と述べたが(番組より)、アメリカ資本主義は人権を侵害する独裁的な支配層と結びつくことにもなり、多くの国民の憎悪の対象となった。それが1979年の反米的なイラン革命になったり、アルカイダなどの反米テロとなったりしていった。911から21年経ってもアメリカにはなぜ憎まれるかという真摯な検討や反省が見られないように思う。

アイキャッチ画像は

ワールドトレードセンター
https://arquitecturaviva.com/articles/yamasaki-redux-6

日本語記事
miyataosamuをフォローする
Follow by E-mail / ブログをメールでフォロー

If you want to follow this blog, enter your e-mail address and click the Follow button.
メールアドレスを入力してフォローすることで、新着記事のお知らせを受取れるようになります。

スポンサーリンク
宮田律の中東イスラム世界と日本、国際社会

コメント

タイトルとURLをコピーしました