イラン発の法華経が表すもの

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Translation / 翻訳

 雑誌『オリエント』に前田君江氏が書かれた「ペルシア語訳『法華経』とホウゼ発の仏教講義・仏教書」という短報がある。(54-2、2011年123-126頁)


 「ホウゼ」とはイスラムの神学校で、イスラムの宗教界全体を表すこともある。イラン人のパーシャーイー氏は、イランの宗教都市ゴムの宗教大学で仏教学の講義をするなど、イスラムを国是とするイランでは異彩を放っている。2008年に日本の国際交流基金の出版助成で『法華経:マハーヤナ(大乗)経典』『法華経研究:(附)「無量義経」訳・法華経用語辞典』をペルシア語で翻訳した。いずれも500頁に及ぶ大著だそうだ。

福島の原発被災地で礼拝を行うAfshin Valinejadさん
2013年7月


 イランと日本の宗教文化のつながりについては松本清張が小説『火の路』で触れている。それによれば、飛鳥時代に日本にゾロアスター教が伝わり、斉明天皇(第37代天皇。在位655~661年)はその信者で、マギ(古代ペルシアの司祭)の秘術を用いたために、『日本書紀』の中で神秘的な人物として描かれているという。松本清張は、日本の奈良のお水取りの行事も、イランのゾロアスター教の影響を受けたものではないかという推論を立てている。


 ゾロアスター教の宗教的慣習から火には鎮魂の意味がもたれるようになったという説もある。夏季に日本人が好む花火にも鎮魂の意味があり、伝統ある「隅田川花火大会」も江戸時代に第8代将軍の徳川吉宗が病気や凶作、飢饉のために出た多くの死者霊を慰めるために、隅田川の水神祭りで、花火を打ち上げさせたのが始まりとされる。このようにゾロアスター教は日本とも少なからぬ縁をもつ宗教である。

ハスの花 神代植物公園


 2000年9月、ニューヨークの国連本部でユネスコの松浦晃一郎事務局長の司会のもと、「文明間の対話」準備の首脳会議が開かれた。その際、イランのハタミ大統領(当時)は、「経済指標や破壊的な武器が支配する世界ではなく、道徳・謙虚さ、そして愛が支配する世界で生存していくという希望を実現したい。」と述べた。


 ハタミ元大統領は2000年11月に来日した際にも日本の禅とイスラム神秘主義がともに沈黙の中から多様な示唆と寓意を読み取ること、相手の言うことに耳を傾け、相互に理解し合うのがアジア(日本とイランを含めて)の精神風土だと語った。


 イスラム世界では物騒なニュースが続くが、法華経がペルシア語に訳されるように、宗教を超えてその精神世界は本来相互に理解でき合うもののように思えて仕方ない。

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