「彼らは殺すために空を飛び、我々は食するために地面を掘る」―中村哲医師

日本語記事
スポンサーリンク
Translation / 翻訳

 アメリカ国防総省が出している「Airpower Summary」という月報は、対テロ戦争の20年間、アメリカとその同盟国は337、000発の爆弾やミサイルを投下したことを明らかにしている。これは一日平均にすれば、46回の攻撃になるのだそうだ。また、この報告書によれば、アメリカはバイデン政権になっても、アフガニスタン、イラク、シリアに1,178発の爆弾、ミサイルを落とした。


 米軍やその同盟国による空爆、軍事的駐留(占領)、腐敗した政府への支援はアフガニスタンの人々をタリバン支持に向かわせた。アメリカの空爆がどのような結果や被害をもたらしたかについては詳細な報道や報告がされていないが、そこには空爆の被害を明らかにしたくないアメリカ政府や米軍の意図があるのだろう。地上兵力によらない空爆の多用によって市民の犠牲が増え、アメリカはアフガニスタンの人々の支持を得ることができず、また国際的な信用と影響力も対テロ戦争の20年間で著しく喪失した。

アメリカのアフガニスタン空爆
これではアフガン社会は安定しない
https://www.businessinsider.com/us-bombing-in-afghanistan-at-highest-level-in-9-years-2019-10?fbclid=IwAR2iQ4jrZgCLqAGdPmWIWubwGtpGkIeME0ya8_LqvqrK7fujB3xMY95M_M0


 空爆では人心を掌握できないのは明白で、反米感情は募り、当然のことながらアフガニスタンの人々の貧困の改善にも役に立たなかった。またアメリカが支えていた政府の高官たちは私腹を肥やすばかりで、国民の安寧など考えなかった。


 「彼らは殺すために空を飛び、我々は食するために地面を掘る」

一斉浚渫の前に各村の代表がマドラサ(学校)に集まった=2912年9月9日、アフガニスタン・ナンガルハル州
https://specials.nishinippon.co.jp/tetsu…/contribution/14/


 これはアフガニスタンで用水路を建設するなど地上で支援を行っていた中村哲医師の言葉だが、アフガニスタンに対する米英など有志連合軍の活動や中村医師の支援の本質をよくとらえたものだ。米軍など多国籍軍の活動はアフガニスタンの戦後復興など視野に入れていないか、あるいは著しく軽視するものだった。


 このほど、イラク戦争開始(2003年3月)よりもだいぶ前の2002年4月にブッシュ大統領とイギリスのブレア首相がイラク戦争について具体的に議論を行っていたことを示す文書が見つかった。(「Middle East Eye」1月13日)そこでは、ブッシュ大統領は誰がサダム・フセインの後継の大統領(元首)になるか、具体的に何の考えにも及んでおらず、まず戦争ありきであったことが明らかになった。ブッシュ大統領は穏健で、世俗的な人物がフセイン後継にふさわしいと考え、それがイスラムの宗教性の強いサウジアラビアやイランに好影響を与えるものと考えていた。この文書はブレア首相の外交顧問であったデヴィッド・マニングによって書かれたものだが、米英はイラクによる大量破壊兵器保有の証明などにもかかわらず、当初からイラク攻撃とフセイン大統領の排除を考えていたことをこの文書は示している。


 中村医師は「人々の関心は『いかに耕し、いかに生き延びるか』という、平和な農村共同体の回復にあることは、肝に銘ずべきである」(03年7月9日付ペシャワール会会報)と書いているが、現地の人々の回復や復興への自助努力を後押しするという中村医師の基本的姿勢が米英などにあればアフガニスタンの現在はそうとう違ったものになっていただろう。アフガニスタンの文化を脅かさず、生きるための支援を行うことが米軍などの対テロ戦争の視野に入っていなかった。

伊藤和也さんの遺族が設立した「菜の花基金」で建設されたマドラサで学ぶ子どもたち=2014年12月2日、アフガニスタン(撮影・中原興平氏)
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/566365/


アイキャッチ画像はガンベリ砂漠に生み出された水田で田植えが始まった。用水路の恵みの結実だ(ペシャワール会提供)
https://specials.nishinippon.co.jp/tetsu_nakamura/contribution/22/?fbclid=IwAR0OMW9E2FekmsjU677ISXEs7dzPtrlvLOKHbIqjABwdDAPRPcIgpq2nHbc

日本語記事
miyataosamuをフォローする
Follow by E-mail / ブログをメールでフォロー

If you want to follow this blog, enter your e-mail address and click the Follow button.
メールアドレスを入力してフォローすることで、新着記事のお知らせを受取れるようになります。

スポンサーリンク
宮田律の中東イスラム世界と日本、国際社会

コメント

タイトルとURLをコピーしました