戦争の犠牲になる声なき生物とフィリピンの環境改善に努めた元日本兵

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Translation / 翻訳

 ウクライナ戦争は環境にも負の影響を与え、ウクライナの南海岸にある黒海生物圏保護区は渡り鳥の生息地で、12万羽以上の鳥が冬を越す。その中にはオジロワシ、ウミアイサ、セイタカシギなどのめずらしい種類の鳥もいる。この保護区の多くの地域がロシア軍によって占領されているのだ。ロシア軍による建物や家屋の破壊が日々の報道では目立つが、モノを言わぬ生物たちも戦争による犠牲を強いられている。戦争は野生動物の生息地を破壊し、野生生物の命を奪い、空気や土壌の汚染を引き起こす。土壌汚染では、ベルギーの第一次世界大戦の激戦地のイープル周辺では鉛と銅による汚染がいまだに見られている。ウクライナは化学プラントや石油貯蔵所、炭鉱などがあり、これらの施設が破壊や破損すれば、土壌の汚染をもたらすと考えられている。また、ウクライナには4つの原発と15の原子炉があるが、今後ロシア軍のミサイルが撃ち込まれるという懸念は払しょくできない。


 ウクライナの原発がロシア軍の攻撃の脅威にさらされていることを知り、作家の林京子さん(1930~2017年)の体験を思い出した。林さんは、1945年8月9日に長崎市内の三菱兵器工場に学徒動員中に被爆した。被爆から30年後、その体験をモチーフに書いた短編『祭りの場』で、芥川賞を受賞した。

林京子さんの著書
From Trinity to Trinity
グランド・ゼロの地点に立ち《人間の原点》を見た著者の苦渋に満ちた想いを刻す
アマゾンより


 林さんは、長崎の原爆投下から54年後の1999年にアメリカ・ニューメキシコ州トリニティ・サイトを訪ねた。ここは、1945年7月16日に核爆発実験が初めて行われた場所で、この時と同じプルトニウム型の原子爆弾が長崎に投下された。林さんはトリニティ・サイトでカラスなど鳥も飛んでいない様子を見て、広島や長崎より前に原爆の犠牲になった声なき生物がいたことを知った。


「大地の底から、赤い山肌をさらした遠い山脈から、褐色の荒野から、ひたひたと無音
の波が寄せてきて、私は身を縮めた。どんなにか熱かっただろう――。(中略)被爆者の先
輩がここにいた。泣くことも叫ぶこともできないで、ここにいた。/私の目に涙があふれた」
-林京子「トリニティからトリニティへ」

林京子さんの遺影と著書=東京都文京区で2017年8月9日午後6時52分、鶴谷真氏撮影
https://mainichi.jp/articles/20170815/dde/018/040/017000c


 戦争の当事者たちは環境への配慮なく、アジア太平洋戦争では日本軍も環境破壊を行ったことは想像に難くない。日本軍が行った破壊について贖罪の想いからフィリピンでマングローブの植林に努めた日本人がいた。土居潤一郎氏(1920~2003年)は通信部隊の小隊長としてフィリピン・ネグロス島で終戦を迎えた。戦中、部隊が山中に退避する際にネグロス島のシライ市の教会の爆破を上官から命ぜられたが、爆破したと偽って報告したことがあった。教会は住民たちの避難場所になっていて、爆破は無辜の住民たちの死をもたらすことになる。実際に爆破を行っていたら戦後も現地住民たちの反日感情は根強く定着しただろうと土居氏は語っている。


 戦後、1974年にフィリピンを再訪すると、現地に残され、「敵国人」とされた日本人や、日系2世、3世の困窮した生活を目の当たりにして、その支援に着手するようになるとともに、戦中に「迷惑をかけた」現地の人々の役に立ちたいと考えた。現地の貧しい人々に食事を提供し、「お腹いっぱい食べさせてあげたい」が口癖になった。


 フィリピンでは1970年代より魚やエビの養殖のために、マングローブの伐採が進んだが、土居氏の呼びかけで「イカオ・アコ」というNPOが起ちあがった「イカオ・アコ」は、フィリピンの言葉で「あなたと私」という意味だが、1997年から活動を開始して、2020年までに175万本の植林を行った。マングローブは海水と淡水がまじりあう「汽水域」に生息する植物の総称で、マングローブが伐採されると海岸線が削られていくとともに、津波被害を防ぐことができなくなる。またマングローブは鳥や魚、エビ、カニなどの生態系のるつぼであり、伐採すると魚が育たなくなり、漁業が不振に陥りさらなる貧困を招くという問題がある。

写真手前に生えているのは5年前に植えたマングローブ、奥に植っているのが10年前に植えたマングローブ。「マングローブは1年間に約1m成長し、二酸化炭素をよく吸収します
https://jammin.co.jp/charity_list/200608_ikawako/


 戦場であったフィリピンでのマングローブ林の復興を考え、生物の再生を考えた土居さんの活動は、日本に環境問題に取り組む先駆者たちがいたことを教え、またウクライナ戦争でも命を奪われる声なき生物がいるという戦争と環境問題の本質を教えている。

アイキャッチ画像は

1999年の写真。白い帽子をかぶっているのが土居潤一郎さん。良質の苗を選択して植林サイトに運ぶため、現地の子どもたちもお手伝い。
https://jammin.co.jp/charity_list/200608_ikawako/

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