パレスチナ国家創設を禁ずるアメリカ・テキサス州共和党

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 昨年6月末、アメリカのテキサス州共和党はパレスチナ国家創設を禁ずる綱領を採択した。強調するが「反対する」ではなく、「禁ずる」というところに彼らの世界観が表れている。この決定の背景にあるのはアメリカの福音主義者たちのイスラエルの国益を擁護すれするほどキリストの復活が早まるという考えで、福音派は共和党の重要な支持基盤だ。パレスチナ国家は、イスラエルの安全を危うくし、ユダヤ人が神から与えられた土地を放棄させることになると主張している。2019年には国連加盟国193カ国のうち138カ国がパレスチナ国家の創設を認めており、国際社会の意思にも反するものだ。


 19世紀イギリスの神学者ジョン・ネルソン・ダービーはユダヤ人がエルサレムを支配して第三の神殿を、バビロニア人が壊した第一神殿、またローマ人が破壊した第二のユダヤ王国の神殿の跡に築くべきだと訴えた。これはダービーによれば、キリスト教徒が地上における7年間の混乱と苦難の最悪の期間からキリストによって救われる「携挙(ラプチャー)」の前提と考えた。これに続いて「アルマゲドン」と呼ばれる善と悪の戦いがあり、悪魔が敗れ、キリストが至福の王国を建設する。このダービーの考えは、アメリカの福音派によるイスラエル支持の源流となる考えであり、至福の王国の実現は1940年代のイスラエル建国によって可能になったとアメリカの福音派は考える。

アメリカの福音主義者
https://www.liriklagu.id/


 アメリカの福音主義に多大な影響を与えた人物にハル・リンゼイ(1929~)がいて、彼は『地球最後の日』(The Late, Great Planet Earth, 1970)を著し、この本は1990年までに2800万部を売った大ベストセラーとなった。これによれば、善と悪のアルマゲドンの後、キリストが千年至福王国の王として再臨する、また人が生き残りたければ、占領を含めてイスラエルの利益を支持すべきであることが説かれている。


 福音派はイスラエルの国益を擁護するために、イスラエルの敵を排除することを訴え、イラク戦争、またイランとの戦争を唱道している。さらにヨルダン川西岸やガザ地区からパレスチナ・アラブ人を放逐するよう唱え、これらの地域がイスラエルに含まれるべきだと主張する。こうした考えはイスラエルの強硬派と合致するものである。しかし、アメリカ以外の福音派にはこうした考えは見られない。

福音派を皮肉るシーンが登場する映画「ボラット」
https://quotesgram.com/borat-quotes/


 戦争を唱道すること、つまり人を殺害することは人間の幸福を考えるという宗教の本質からは逸脱し、以前日本で会ったスペイン人の修道女はアメリカの福音派をキリスト教と考えないでくださいと述べていた。宗教に暴力の正当性を求めるという点ではISやアルカイダなどとも同様だ。

イスラエルに破壊されたガザの学校で
https://lb.sahafahn.net/show7702941.html


 テキサス州共和党の考えはすでにトランプ政権の対パレスチナ政策の中にも反映された。トランプ大統領は、エルサレムにアメリカ大使館を移転し、またシリアのゴラン高原にイスラエルの主権を認め、事実上イスラエルの一国解決を認めてしまった。テキサス州共和党の決定はアメリカ政府の意思ではないが、アメリカのイスラエル寄りの姿勢をあらためて鮮明にしたもので、中東イスラム世界のアメリカのイメージを曇らせるものであることは間違いない。

アイキャッチ画像は

アメリカのイスラエル支援をやめよ ーアメリカ・ロサンゼルス
2021年5月15日
https://www.worldpoliticsreview.com/israel-settlements-israel-us-relations-and-the-israeli-palestinian-war/

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