中村哲医師 ―アフガニスタンでの実践から得られた言葉と、農業は平和の象徴

日本語記事
スポンサーリンク
Translation / 翻訳

「中村哲が14年に渡り雑誌『SIGHT』に語った6万字」と題するサイトは、中村哲医師がアフガニスタンでの実践から得られた政治・社会観を2002年から9年に渡って語った言葉を紹介している。

中村哲が14年に渡り雑誌『SIGHT』に語った6万字
アフガニスタンで長年、人道支援と復興に携わってきた医師・中村哲さんへ追悼の意を込め雑誌『SIGHT』に14年に渡り掲載した9本のインタビューを公開。

 その一部を引用すると、

「政治権力を誰がとるかということはアフガニスタンの内政の問題でるということですね。こっちとしは徳川家康が出ても、豊臣秀吉が出ても、それは彼らの選択であって外国人は口を出してはいけない、っていうのが基本的姿勢なので・・・」

「最近はテロリストという言葉の響きが変わってきまして、政治目的を達成するためには罪もない人を巻き添えにするということがテロリズムの定義とするならば、欧米諸国の軍以上のテロリズムはないんじゃないかと私は思います。」

「聖書の言葉を使うと、『剣によって立つ者、必ず剣によって倒される』と。これはもう歴史上の鉄則なんです。」

 2001年9月の同時多発テロを契機として米国は対テロ戦争に踏み切り、武力で民主主義を樹立すると訴えて、アフガニスタンでタリバン政権を打倒し、イラクでもサダム・フセイン政権を武力で崩壊させた。この間、アフガニスタンでは、10万人以上の市民が最近の10年間で死傷したと国連は2019年12月に見積もった。

Afghan war caused 100,000 civilian casualties in last decade: UN - France 24
Afghan war caused 100,000 civilian casualties in last decade: UN

 アフガニスタンでは、民主主義が樹立されるどころか、米国が女性を奴隷のように扱っているとしたタリバンが政権を再奪取した。イラクでは、1990年代に過酷な経済制裁を科し、1995年12月にニューヨークタイムズは制裁による栄養失調や医薬品不足などの死者を576,000人と推定した。イラク戦争では数十万人とも見られる市民たちが犠牲になった。中村医師の言葉を借りれば、米国の「テロリズム」であり、中村医師は、経済制裁は最も弱い人たちを困難に陥れると述べていた。

 ウクライナでは戦争によって小麦など穀物が輸出できなくなっているが、農業ほど平和を感じさせる産業はない。911同時多発テロ15年の特集として制作されたNHK・ETVのドキュメンタリー「武器より命の水を」の中で中村哲医師がつくった用水路によって稲、麦、野菜、果物が収穫され、魚が用水路を泳ぎ、生きとして生きるもの、すべてのものが和すこと、それが平和であることを伝えていた。

中村哲医師とペシャワール会による用水路によって土地が緑化され、パキスタンから戻ってきた農民(2008年) ©石山永一郎氏
https://bunshun.jp/articles/-/17358?page=2

 中村医師は、「人はお腹がいっぱいになれば戦争に行きません」と語っていたが、イスラム神秘主義(スーフィズム)詩人のルーミーは『精神的マスナヴィー』の中で次のような説話を紹介している。

 ある人が、4人の男(ペルシア人、アラブ人、トルコ人、ギリシア人)に1ディルハムの金を与えた。ペルシア人はみなにいった。「この金でアングールを買おう」。アラブ人は、それを聞いて「この馬鹿め。俺はアングールではなくて、イナブを買うのだ」といい、トルコ人は「私はイナブは欲しくない。ウズムが欲しい」といい、ギリシア人は、「スタフィリを買おう」という。それぞれ、その金で買いたいものが違い、互いにゆずらなかった。そして、彼ら4人の口論は、互いに殴りあいにまで発展していった。もし、彼らが使うさまざまの言語を解する賢者がいたならば、直ちに彼らの間の争いを鎮め、1ディルハムで4人全員に、それぞれの望むものを与え、満足させたことであろう。なぜならば、彼らはペルシア語、アラビア語、トルコ語、ギリシア語で、それぞれブドウが欲しいといったからである。

(竹下政孝『イスラームを知る四つの扉』ぷねうま舎、2013年)より)

アマゾンより

 言語は違ってもそれぞれの内面や求めるものは同じということのたとえだが、国際社会に生きる人々が共通に求めるのは平和があり、食べることが満たされることだろう。それが実現できなければ、いつまで経っても民族、宗教、ナショナリズムによる紛争や暴力は続き、大量の難民が発生するという悲劇が繰り返されることだろう。特にテロを根絶すると言って、爆弾を落とす側の為政者たちは共通の内面に気づいてほしい。

「トルコの本来の主人は、実に生産者である農民である。従って、すべての人よりも繁栄と幸福、富にふさわしい者は農民である。」 ―ケマル・アタテュルク(トルコ共和国初代大統領)

「大地を耕す事を通じて農夫は少しずつ自然のあらゆる秘密を引き出す。その鍬によって掘り出した真実は普遍的です」 ―サン・テグジュペリ

アイキャッチ画像は 

https://www2.nhk.or.jp/archives/jinbutsu/detail.cgi?das_id=D0009250593_00000 より

日本語記事
miyataosamuをフォローする
Follow by E-mail / ブログをメールでフォロー

If you want to follow this blog, enter your e-mail address and click the Follow button.
メールアドレスを入力してフォローすることで、新着記事のお知らせを受取れるようになります。

スポンサーリンク
宮田律の中東イスラム世界と日本、国際社会

コメント

タイトルとURLをコピーしました