中村哲医師が紹介する中田正一氏の「ともに生き、支えられる」の精神

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 中村哲医師の「共生」の精神については今日のメルマガで書いたが(https://miyataosamu.jp/the-spirit-of-symbiosis/)、その著書『アフガニスタンの診療所から』(ちくま文庫、2005年)には「私たちにとっての『国際協力』とは決して一方的に何かをしてあげることではなく、人びとと『ともに生きる』ことであり、それをとおして人間と自らを問うものでもあります。」と述べている。(211頁)


 同書で紹介されているのは過日も紹介したバングラデシュやソマリアなどで上総掘りの技術を普及し、「風の学校」を創設した中田正一氏だ。中田氏は、中村医師に1989年にペシャワールで会い、「平和の暁にはアフガニスタンで一生を閉じるのだ」とまで言っていた。また、中村医師の著書には中田正一氏『国際協力の新しい風』(岩波新書、1991年)の文章の一部が紹介されている。それは以下のようなものだった。


 「ある時、三人の若者が山の中で吹雪にあい、遭難しそうになった。C君はぐったりして動けなくなった。とほうにくれたA君、B君のうち、A君は頭の良い人で、『このままでは皆が危ない。ぼくが一人でさきにようすを見てくる』といって二人をおいて身軽に行ってしまった。
 ところが、待てど暮らせどもどってこない。残されたB君は、『まあ仕方がない。ともかく凍えるよりは』と、たおれたC君を背にしてとぼとぼと雪の中を歩きはじめた。さいわいB君もC君も救助隊に助けられたが、途中で彼らが遭遇したのは、なんと先に一人で進んだA君の死体だった。その時B君が電光のようにさとったことがある。『ぼくはC君を助けるつもりで歩いていた。だが、じつは背にしたC君の体の温もりであたためあい、自分も凍えずに助かったのだ』」(文章は中村医師の書いたところによる。同書192-93頁。中田氏の著書では231―32頁)

中田正一氏


 中村医師によれば、この話を中田氏は好んでいろんな機会で話していた。中田氏は「人のために何かをしてやるというのはいつわりだ。援助ではなく、ともに生きることだ。それで我々も支えられるのだ」という持論をもっていたと中村医師は紹介している。


 中田氏は「『人の為につくした』とか『途上国に協力した』とか、威張るのではない。昔の人は、よく知っていた。人の為めと書いて、偽(いつわり)と読ませた。人の為めでなくて、みんな自分のためやっているのだ・・・・とは、私の師のいましめであった。」と書いている。(中田正一『国際協力』232頁)「国際協力」の「協力」とはお互い対等の立場に立って力を合わせるものだというのが中田氏の主張だった。

中田氏の著書より


 一時の援助は、その効果はすぐ消滅してしまう。教え、教えられる協力関係、人間交流こそがまさに長い期間にわたって伝えられ、地理的にも広い範囲で人々の利益になり、また環境汚染をしてきた日本のような工業国も自然循環の回復や修正を教えられると中田氏は述べていた。中田氏や中村医師の主張は気候変動問題に直面する国際社会がまさに傾聴すべきものだろう。


アイキャッチ画像はケニアの上総掘り
https://ameblo.jp/gospel-square/entry-10305676125.html

中村哲医師の著書より 中村哲医師は左から2人目
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