慈愛に包まれる星空を仰いで

日本語記事
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Translation / 翻訳

 夜空の星々は 夜が太陽と離れた悲しみに 胸を焦がしてできた傷跡
 私の体にも 夜ごと愛の火に焼かれてきた 無数の焦げ跡が隠されている
 ―ナヴァーイー(1441~1501、ティムール朝末期ヘラートで活躍した詩人、萩田麗子訳)
 

 昨日は七夕だったが、オリエント(中東イスラム)世界に古代からの占いの形態である占星術は、バビロン第一王朝(紀元前18世紀~16世紀)で生まれ、国家の軍事、為政者やその家族の生活の未来について占うものであった。
 占星術は、太陽、月、惑星を観察することによって人間、集団、国家の運命を予見したり、またその運命を決定したりするものだ。後にイスラム世界で発達した天文学の基礎ともなった。占星術は、惑星の位置や十二宮一覧図(太陽と月と主な惑星がその中を運行する天体図)で、人の誕生とともにその人生を予見する場合もあった。メソポタミアで生まれた占星術は、ギリシアで体系化されて、ペルシアを経て、アラブ世界に伝わっている。
 占星術はアッバース朝時代(750~1258年)にイスラム世界で最盛期を迎えた。アッバース朝の支配者には占星術を通じて、その支配が古代メソポタミアの諸王国やイランのサーサーン朝の正当な後継者であることをアピールするというねらいがあった。イスラム世界の占星術は12世紀にスペインから西欧に伝えられ、西欧でも盛んになった。

天の川
イラク北部
http://milkywaychasers.com/2016/09/24/mahmood-alsawaf-in-northern-iraq/?fbclid=IwAR0PkpAl5d6q32r60EQ2viq8m2Gf_9EojCLfhHr91UbhIASuzCa9koJ9Lvc


 占星術はイエス・キリストの誕生とも結びついている。
1イエスは、ヘロデ王の時代にユダヤのベツレヘムでお生まれになった。そのとき、 占星術の学者たちが東の方からエルサレムに来て、 2言った。「ユダヤ人の王としてお生まれになった方は、どこにおられますか。わたしたちは東方で その方の星を見たので、拝みに来たのです。」 (『マタイ伝』2:1-2:2)
http://james.3zoku.com/jesus/jesus001.html
 この東方から来た占星術師は、イランのパルティア王国(前247年 ~224年)からやって来たゾロアスター教の祭司だったと考えられている。

バビロン
イシュタール門の本物はドイツ・ベルリンのペルガモン博物館にある
https://www.inexhibit.com/mymuseum/pergamonmuseum-berlin/


さかづきに滿たした赤葡萄酒は溢れ大地へこぼれ落ち、薔薇(さうび)の花へと生まれ変わる。我と汝、祝福と呪詛、魚座の星と月。そのあわいに生まれし命は人の世を巡り巡っていつかまた土へと還り、それを眺むるは天の月と神ばかり。
―オマル・ハイヤーム「ルバイヤート」
https://bookmeter.com/books/18683


 砂漠の民であるアラブの人々は、星によって季節や方位を知るすべを学んできた。イスラム時代になって「アンワー」という日の出直前に没する星を観察して、その星がもたらす雨や風などを予測していた。9世紀にギリシアの学術がイスラム世界に導入されると、星などの天文についてもギリシアの影響が現れた。
 現在、日本語でも使われる星の名前は、アラビア語起源のものが多い。たとえば、「アダラ」はアラビア語の「アル・アダーラー(乙女たちの意味)」だし、「ドゥベ」はやはりアラビア語の「アル・ドゥブ(熊)」に由来する。(「アル」はアラビア語の定冠詞で、英語の「the」に相当する。)
 イスラムで重要なラマダーン(断食月)の始まりや終わりが月の満ち欠けで判断されるように、天体の観測はムスリムにとっては重要な宗教行為であり続けた。砂漠で道に迷わないためにも天文の知識は必要であり、その習得はムスリムにとって旅や移動の際の生死に関わるものだった。
 9世紀に諸学問の発展に意を尽くしたアッバース朝の第7代カリフのマアムーン(在位813~833年)は、バクダードに「知恵の館」を設立して、多くの天文学者に研究をさせた。それらの研究は、惑星の運動予知や黄道傾斜の観測など宇宙に関するものだけでなく、地球の大きさの測定も行われていた。天動説で有名なコペルニクスも、アラビアの天文学を大いに参考にしていたとされている。


 イランの詩人で、天文学者、数学者のオマル・ハイヤーム(1048~1131)『ルバーイーヤート(4行詩集)」の中で次ような一説を残し、無常観を表現している。


「愉しめよ、悲哀は限りなく続き、大空には無数の星がきらめこう。おまえの土で焼かれる煉瓦は、いつか他人の館の塀になろう。」


 天空を仰ぎ見ることは、イスラムの人々にとって神の「慈悲(ラフマ)」を感じさせるものでもある。「ラフマ」では人間に対する導きや救済も神の慈悲、慈愛によることが強調される。


 毎晩 夜が明けるまで
 恋人を想って 目覚めているのだ
 空にいる星たちは
 この様子を見ているだけ -アブドゥハリク(ウィグルの詩人、萩田麗子訳)


アイキャッチ画像は有村架純
https://twitter.com/kasumikaho213/status/1015574190752067585

短冊、いろいろありますね。
https://www.pinterest.com/pin/309481805621497658/
http://kanachi.jp/diary/img/1406-3.jpg
新垣結衣
https://farm4.static.flickr.com/3121/2592589493_7532b54d9a_o.jpg?fbclid=IwAR0LT7B0aoXFV-43-NmGVPimjXbUQdxHbEjIqmnoltqO7S2m4FeBFcjHaTg
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