サンフランシスコ講和条約とアジア的価値による平和

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Translation / 翻訳

 9月8日は1951年にサンフランシスコ講和条約が締結された日である。サンフランシスコ講和会議など戦後秩序の形成においてアジア諸国、特に南アジアの国々は国際社会における日本の平和的役割を強調し、戦争責任は日本だけにあるのではなく、戦勝国も同様に責任を負うべきだと主張した。またこれらの国は西欧の植民主義支配に置かれていた歴史的経緯から戦勝国が日本を植民地のように扱うべきではないと考えていた。

同感に思います。
https://twitter.com/seiji_ya/status/619347641613205504


 サンフランシスコ講和会議にパキスタンの外務大臣で、19世紀英領インドで生まれたイスラムの改革運動のアフマディーヤの敬虔な信徒であったザファルラー・カーン氏は、「日本の平和は、正義と公正によって維持されなければならず、復讐や反発の気持ちを抱いてはいけない。将来、日本は世界で社会的、政治的な重要な役割を果たすことになるであろう。日本は輝かしい未来を持っている国であり、必ず平和を愛する人々なのだ。」と日本に対する公平な処遇を訴えた。(パキスタン大使館のサイトより)アフマディーヤは、すべての人々の平等を説き、人間の内面における闘争、努力(=ジハード)を重視し、武力による戦いを否定した。ちなみに、アメリカ黒人のジャズ・ミュージシャンの多くはこのアフマディーヤの信仰からイスラムに接するようになっている。

東日本大震災の犠牲者を追悼するインドの子どもたち
https://bharatiya.exblog.jp/14433717/


 同様に、日本に対する報復の感情を捨てるように訴えたのはスリランカ代表団のJ.R.ジャヤワルデネ氏(後に1977年に大統領に就任し、仏教と民主社会主義による統治を主張した)で、「なぜアジアの諸国民は、日本は自由であるべきだと切望するのでしょうか。それは我々の日本との永年に亘るかかわり合いのゆえであり、またアジア諸国民が日本に対してもっていた高い尊敬のためであり、日本がアジア緒国民の中でただ一人強く自由であった時、我々は日本を保護者として又友人として仰いでいた時に、日本に対して抱いていた高い尊敬のためでもあります。(中略)大師(ブッダ)のメッセージ、『人はただ愛によってのみ憎しみを越えられる。人は憎しみによっては憎しみを越えられない。実にこの世においては怨みに報いるに怨みを以てしたならば、ついに怨みのやむことがない。』(中略)そうであるから我々は、ソ連代表の言っている、日本の自由は制限されるべきであるという見解には賛同できないのです。」と述べた。

鎌倉にある高徳院
1991年に建てられたこの石碑の裏には、
「人はただ愛によってのみ憎しみを越えられる
人は憎しみによっては憎しみを越えられない」
と記されてある
https://srilanka-jr-japan.hatenablog.com/…/02/06/002128


 また南アジアの大国インドは、サンフランシスコ講和条約の調印を拒否した。その理由は、米軍が継続して日本に駐留すること、沖縄と小笠原諸島をアメリカが信託統治すること、ソ連が北方領土と樺太南部を獲得することなどであった。インドは米ソ冷戦という環境下で日本が両陣営の基地化することに反対し、日本の完全な主権回復を訴えていた。


 極東軍事裁判で判事を務めたインドのパール判事は、「戦いに勝てば、その戦争は防衛戦となり、正当化される。そして勝者は敗者を裁く権利をもつ。これが慣習化されれば、どのような『侵略』戦争も『自国防衛』の名の下に正当化されることになるだろう。」とパールは考えた。パールは裁判の後も、日本を何度も訪ね、「世界連邦」の樹立と日本の再軍備反対・平和憲法の死守を訴え、発言した。「(原爆を)落とした者の手はまだ清められていない」「武装によって平和を守る、というような虚言に迷うな」とも語っている。

パール判事
https://twitter.com/cherry12202/status/964253544135012353


 日本は戦後南アジア諸国が示してくれた平和国家日本への期待を忘れていないだろうか。保守本流と言われた自民党の宏池会や田中派などは、アジア外交重視を掲げたが、小選挙区制度になると、自民党の多様性は失われ、清和会のようにアメリカ一辺倒の外交・安全保障政策に転換するようになっている。イラクに自衛隊を派遣したり、アメリカとの集団的自衛権を確立したりすることは、アジアの人々、また私が研究対象とする中東イスラム世界の人々の日本に対する期待を裏切っている。清和会の政治姿勢が問題になっている中で、日本の外交方針をあらためて熟慮したらどうだろう。ペルシア湾への掃海艇の派遣がなし崩し的なアメリカへの軍事協力になると危惧した後藤田正晴氏のような考えをいまの政治家たちにも共有してほしいと思う。

アイキャッチ画像はパキスタン外相ザファルラー・カーン氏
https://www.britannica.com/biography/Muhammad-Zafrulla-Khan

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