2022年8月26日の閣議後の記者会見で葉梨康弘法務大臣は、一昨年8月のタリバン政権再成立以降、日本に避難民として逃れてきたアフガン人143人の難民申請を受け、133人を難民として認定したことを明らかにした。133人のうち98人はカブールの日本大使館で働いていた現地スタッフとその家族で、残りの人々も「日本のために働いていた方々」(葉梨法相)なのだそうだ。これまで日本の難民認定数は昨年、2021年の74人が最多で、昨年8月の認定数は日本とすれば異例の多さだった。
1994年1月10日放送の筑紫哲也さんのニュースの中で当時国連難民高等弁務官だった緒方貞子さんは、日本が難民の受け入れを拡大するには日本国民の圧力が重要と語っている。https://www.youtube.com/watch?v=L7-P3Fgb7MY
難民の受け入れについては国際社会からの圧力ではなく、むしろ日本国内からのもののほうが本格的圧力だと述べている。緒方さんによれば、米国が1993年にソマリアに米軍を派兵したのはソマリアの悲惨な状況をテレビで見た世論のソマリアに対して何かしなければならないという声が高まったからにほかならない。こういう国民の思いが政府の行動の契機となることを緒方さんは強調し、期待していた。

http://kyosei.u-sacred-heart.ac.jp/event/20210619/
一昨年8月にアフガニスタンで政治変動があってから日本で教育を受け、タリバンによって倒された前政権の官僚になった人々を救援しなければならないという声が大学教員などから高まった。(たとえば伊勢崎賢治・東京外国語大学教授のインタビュー記事「緩衝国家・日本も迫られる平和構築の課題」長周新聞、3月17日など)こうした動きや、スリランカ人の女性が入管施設で亡くなったことに対する強い抗議があったことも政府に対して無視できない圧力になったに違いない。
日本は2010年代、670万人とも見積もられるシリア難民が出る中で、シリア難民に対しては極めて冷淡だった。たとえば2018年のシリア難民の受け入れはわずかに3人、人道的配慮によって在留を認められた人も2人だった。
緒方さんはシリア難民の受け入れに消極的な日本政府の姿勢に対して「けちくさい『島国根性ではないか。『積極的平和主義』というのなら、もう少し受け入れなければならない』と語っていた。急速に少子高齢化する日本は「合法的な外国人労働者の受け入れと難民への対応を見直していく時期に来ている」と緒方さんは考えた。(緒方貞子『私の仕事 国連難民高等弁務官の10年と平和の構築』朝日文庫)日本と同様に少子高齢化社会となっているドイツでは、将来の年金や産業を維持する配慮からも難民を受け入れてきた。昨年、アフガン難民の受け入れ数が増加したことは、国民の関心や圧力が政府の「島国根性」の殻を破ったものとも言える。
日本人のアフガニスタンへの日本人の関心を高めた中村哲医師のアフガニスタンでの活動を忘れてはならないだろう。中村医師は、アフガニスタンから難民が流出しないように、アフガニスタンの人々が自立できるように用水路をつくり農地を造成する努力を行った。日本人がアフガニスタンのような発展途上国に対してできることがあることを示した中村医師の功績は大きい。

https://www.pinterest.jp/pin/739082988847955942/
緒方貞子さんは同じ筑紫哲也氏との対談の中で難民を出さないための予防的努力も必要、重要だと語っている。中村医師の活動も予防的なものと言えるが、緒方貞子さんは当時緊張や紛争があったタジキスタンを例に人道援助を出さないための政治解決が求められていると語っている。現在、アフガニスタンでは当面米国が好むような政権が成立することは不可能で、目下のところは米国が制裁を科すタリバンの現実的傾向を対話によって引き出すしかない。日本政府にはアフガニスタンからの難民を受け入れるのと同時にアフガニスタンの難民を出さないために、タリバンとの対話を含めてアフガン人たちの暮らしぶりをいかに改善していくかの努力も求められている。繰り返すが、私たち日本国民もアフガニスタンをはじめ世界の難民問題に関心をもち続けることも重要だ。
アイキャッチ画像は https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=W4QKg6aZ_5A より
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