「正義、不正義とは明確な二分法で分けられるものではない。敢えて『変わらぬ大義』と呼べるものがあるとすれば、それは弱いものを助け、命を尊重することである。」(中村哲『医者、用水路を拓く』31頁)

戦争とはそれとは真逆の人の命を奪い、破壊をもっぱら行う所業であることは、日々伝えられるウクライナ・マリウポリなどの映像を見ると言うまでもない。朝日新聞2007年8月14日付の朝日新聞に藤解節生氏(当時78歳)の記事「数百人で脱走 38度線越えた」という記事があった。
朝鮮半島北東端の羅津の電力会社に勤めていた藤解氏は、1945年8月9日にソ連軍が参戦すると、隣の街の雄基(現・先鋒)にいる家族を探したが、その少し南の山奥で運よく家族と再会する。しかし、1か月後に雄基に戻ると、ソ連軍に拘束されてしまう。拘束されていた時の環境は劣悪で、抑留されたところではノミ、シラミがわき、年寄りたちは発疹チフスで多くが亡くなった。ソ連軍は火葬を許さないために、遺体には石炭ガラをかけた。冬を越せないと思った藤解氏の家族など数百人は雄基港から4隻の帆船で脱出した。記事が掲載された時にもソ連の参戦がなかったら日本人のシベリア抑留も、中国残留孤児もなかっただろうと回想している。

https://www.asahi.com/special/koe-senso/?id=2348&tag=64
この記事の「脱走」という点で思い出したが、アメリカの平和運動家のデイビット・コートライト氏は、4月22日付のウェブサイト「ウェイジング・ノンバイオレンス(Waging Nonviolence)字義通りには「非暴力を行う」という意味)」で、ウクライナでの戦争を停止させるために、ロシア兵の脱走を促すことを提案している。コートライト氏は、プーチン大統領の弱点は、彼の「汚い任務」を遂行させるのに、兵士たちの意思に依存しているところと見て、プーチン氏の戦争への非協力と脱走を兵士たちに促すことが戦争を終結させる手段として一考に値すると主張している。
コートライト氏は、ベトナム戦争やイラク戦争に反対した元米兵たちとともに、ロシア軍の兵士たちに「自身の良心を聴くように」という公開書簡を送った。書簡ではウクライナ侵攻が国際法に違反し、国際司法裁判所がロシアに軍事行動の停止を求めたことなどが記されている。また、書簡はウクライナにまでNATOを拡大するという西側の挑発を認めるものの、問題の解決を軍事手段に訴えることは、国連憲章に反するものだとしている。この書簡はメディアやSNSで拡散されている。
公開書簡は、
https://static1.squarespace.com/…/220330…
にあり、ロシア語と英語で書かれている。
キーウ侵攻などで少なからぬ犠牲者が出て、ロシア兵たちの士気も低下し、兵士たちを送る家族も戦争の意義について疑念をもつようになっている。コートライト氏はロシアのショイグ国防相が危険な地域に徴集した新兵たちを送らないと言っているものの、ロシア政府の言うことに多くのロシア人たちが懐疑的になっているだろうと述べている。
ロシア兵たちの脱走を促すというのは非暴力的手段で戦争を終わらせるのに好ましいアイデアかもしれない。ベトナム戦争でも米兵たちの反戦の動きが戦争終結に貢献したとコートライト氏は述べ、この方策を有効にするには脱走したロシア兵たちを難民として受け入れる西側諸国の官民挙げての協力が必要だと語っている。日本政府もこの動きに注目し、ロシア軍の脱走兵を難民として受け入れるのも一考だと思う。
アイキャッチ画像はロシア兵に脱走を勧める公開書簡

https://www.aljazeera.com/gallery/2022/2/24/photos-protesters-rally-around-the-world-in-support-of-ukraine?fbclid=IwAR30W0NscWvfK4VwZpu5DhjKUf57cC53nkm6-QbWaYhEp7oA5k1Zi2275vI
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