非人道的なロシアによる強制労働の既成事実化

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 「誰か故郷を想わざる」は昭和15年につくられた戦時歌謡だが、ソ連に抑留され、酷寒の中での生活を余儀なくされたシベリア抑留者の間で特によく歌われた。いつ帰国できるかまったく不透明な中で過酷な労働を強いられ、抑留者たちは切なる想いでこの歌を歌ったことだろう。日本兵たちが強制労働に従事させられたのは、武装解除した日本兵の家庭への復帰を認めた連合軍によるポツダム宣言に違反するものだった。ソ連での抑留生活を送った日本の将兵たちは57万5000人に上り、うち約5万8000人が帰らぬ人となった。

https://columbia.jp/artist-info/kirishima/discography/COCP-36114.html

 ロシア軍がウクライナ東部ルガンスク州の拠点都市セベロドネツクで攻勢を強め、このままではウクライナ東部2州でロシア支配が確立されそうだ。国連人道問題調整事務所(OCHA)によれば、ウクライナは、1990年代初頭以降、男性、女性、および子供たちが、強制労働、性的な搾取などの対象として人身売買の対象となっている。人身売買されたウクライナ人たちの行く先は、ロシア連邦、ポーランド、トルコ、およびウクライナ国内などであり、ロシアのウクライナ侵攻によって強制移住と労働の問題はいっそう深刻となっている。

 ソ連時代のグラーグ(強制収容所)が復活したという声も上がるほど、ロシア統治地域での人権問題は深刻になっている。占領地域の住民を強制労働に従事させることは言うまでもなく戦争犯罪である。国連をはじめとする国際社会はこの強制労働の問題にも厳しい注意の目を向ける必要があることは言うまでもない。

 「グラーグ」とは本来は「労働収容所管理総局」のことだが、強制収容所一般を指す言葉ともなっている。グラーグの創設はソ連時代の1919年4月15日だった。秘密警察などによって運営され、1920年代の終わりには、10万人の収容者がいた。収容者の数が増えたのは、スターリンの農業の集団化政策に一致するものだったが、1936年には強制収容所で労働する人々は50万人に膨れ上がっていった。

香月泰男平和の形-シベリヤの記憶と愛した日常-
https://www.youtube.com/watch?v=2NvMMKOqwrQ

 強制収容所に送られたのは、反体制的な政治犯、ドイツや日本など枢軸国側の将兵たち、ソ連の体制に忠実ではないと見なされた民族のクリミア・タタール人やチェチェン人たちがいた。強制収容所での労働が増えたのはソ連の農業集団化が進んだ1929年から32年の間、またスターリンの粛清があった1936年から38年の時期、さらに第二次世界大戦が終わって捕虜収容の必要が出た頃の時期であった。

 軍事侵攻による既成事実の積み上げには到底納得できるものではない。ロシアによるウクライナ東部支配が確立されそうな中で、アメリカなど欧米諸国はウクライナに対して武器を供与し、ロシアに制裁を科すだけという印象だが、停戦や和平の実現に向けて欧米諸国はロシアと直接対話の道を開いたらどうだろう。侵攻前、ロシアの軍隊がウクライナ国境に集結しても、欧米には外交を行う姿勢が希薄で、いわば「素通り」状態でロシアの侵攻を許してしまった。このままロシアの軍事侵攻に対して手をこまねくばかりだと、ロシアによる既成事実化はいっそう進むばかりだ。1990年のイラクのクウェート侵攻については迅速に軍隊を湾岸地域に派遣して、最終的にはイラクをクウェートから排除した欧米諸国もウクライナに対してはそのような姿勢が微塵も見られない。

 強制収容所の活動が絶頂期には各収容所には2000人から10000人の人々が飢えや処刑の恐怖と向き合いながら労働に従事していた。スターリンの死とともに、グラーグの規模も縮小していったが、クリミア・タタール人たちが故地に帰還できたのは結局ソ連邦の崩壊を待たなければならなかった。

 日本人の中には抑留生活の極限の中で才能を開花させた人たちもいた。シベリアに抑留された香月康男の絵画にも日本兵たちの深い悲しみが描かれている。また、ウズベキスタンのタシケントで強制労働に就いた人々はウズベキスタンの象徴とも言えるタシケントのナボイ劇場を造り上げたこともあった。強制労働の苦しみを知っている日本だからこそロシアの強制労働による困難はよく理解できる。日本はウクライナ人の人権を侵害する強制労働や移住をやめさせるための働きかけを行う声を上げるべきだ。

アイキャッチ画像は 

映画『ラーゲリより愛を込めて』二宮和也×北川景子が夫婦役、不屈の日本人捕虜を描く奇跡の実話
https://www.fashion-press.net/news/79430

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