テレビなどによく登場する三浦瑠璃氏は『文春オンライン』で「日本に平和のための徴兵制を ―豊かな民主国家を好戦的にしないために、徴兵制を提案する」という記事を書いている(2014年9月2日付)。記事の中で「民主主義の成熟度が高いイスラエルでは、予備役兵が数々の平和運動を創始してきた。彼らは醜い戦場の現実を知り、戦時には動員されるためコスト感覚も鋭敏であり、不合理な戦争に対しては市民に先んじて抑制主義に転じる。戦時には、政府が残酷かつ無意味な軍事作戦をしていないか目を光らせる存在でもある。」と三浦氏は述べている。

21年5月
https://www.dailysabah.com/world/mid-east/icc-probe-looming-for-israel-as-death-toll-increases-in-gaza?fbclid=IwAR1psynYG2PwKBhj1b8xBD3yVY6WoSUfeFl81TmDc8UBBAMJWohztkm7xOw
三浦氏は「平和のための徴兵制を」と主張し、イスラエルがモデルになるというが、しかしイスラエルが平和国家ではないことはイスラエル建国以来の歴史を一瞥したり、イスラエルの最近の動静を知ったりすれば容易にわかるはずだ。イスラエルは、独立以来1982年のレバノン侵攻を含めて5度の「中東戦争」を戦い、最近の例でも先月上旬のガザ空爆では17人の子どもたちを含む49人が犠牲になった。イスラエルはパレスチナの武装集団「イスラム聖戦」の関連施設を空爆したと説明したが、イスラエルはこの攻撃で難民キャンプや民間人の家屋を破壊し、450人が新たに住居を失った。
イスラエルは頻繁に隣国シリアを空爆し、その回数はロシアを超えて一番多くなっている。イスラエルは占領地であるヨルダン川西岸でも違法な入植地拡大を行い、パレスチナ人たちを故地から放逐する人権侵害を行い、イスラエル国内の人口2割のアラブ人たちは様々な差別や人権侵害を受け、民主国家とはとうてい言えない。また、三浦氏が言うような予備役が戦争の抑止になったということもない。

平和国家のイメージではない
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中東専門紙の「ミドルイースト・モニター」に「イスラエルは民主国家ではない、腐敗国家である(Israel is not a democracy, it’s a corrupt state)」というガザ在住のジャーナリスト、モタセム・A・ダッルール氏による記事が22年9月9日付で掲載された。ダッルール氏によれば、イスラエルでは総選挙が行われ、法の支配が主張され、信条や表現の自由など人権の促進などがうたわれるが、しかしイスラエル政治の実態は民主主義とはほど遠く、記事のタイトルのように腐敗したものであるという。
記事の中ではイスラエル政府関係者たちによる性加害が指摘され、その中にはモシェ・カツァブ元大統領(大統領在任2000~2007年)が1990年代の観光相在任中に女性職員をレイプして5年間服役したことが紹介されている。カツァブ氏に有罪判決が下された時、ネタニヤフ元首相はイスラエルでは法の下の平等が示されたと語ったものの、そのネタニヤフ氏にも収賄の容疑で裁判が進行中だ。彼には妻とともに198、000ドルの賄賂を受け取ったという容疑があるが、それでも現在イスラエルの野党勢力を指導し、11月の総選挙に臨むなど、ネタニヤフ氏に対する腐敗の告発は彼の政治生命にほとんど影響を与えることがないことをダッルール氏は指摘している。また、オルメルト元首相も米国人実業家モリス・タランスキーから現金を受け取って、イスラエルの首相経験者として初めて服役し、16カ月間の獄中生活を送った。さらに、イスラエルの政治家の腐敗の例としてゴネン・セゲヴ元エネルギー相が2004年に麻薬の密輸とクレジットカードに関わる不正で有罪判決を受けたことなどがイスラエル政治の腐敗の例として挙げられているが、こうした腐敗は民主主義の価値観から著しく逸脱したものであり、イスラエルは民主国家ではなく、腐敗した、ごろつき政治家によって運営される腐敗国家だとダッルール氏は述べている。

https://www.middleeastmonitor.com/20210923-israel-practices-apartheid-say-us-academics/?fbclid=IwAR1psynYG2PwKBhj1b8xBD3yVY6WoSUfeFl81TmDc8UBBAMJWohztkm7xOw
三浦氏はイスラエルを平和国家、民主主義国家として評価し、日本も見習わなければならない例として紹介するが、イスラエルは平和国家でもなく、民主主義もダッルール氏の言うように成熟してもいない。イスラエルがユダヤ人のみによって構成されるというユダヤ基本法は国内のパレスチナ・アラブ人への差別を制度化したもので、イスラエルはアパルトヘイト国家でもある。三浦氏の主張はひどく見当違いで、丁寧な論証とはまったく言えない。徴兵制はイスラエルの例からもわかるように、平和に備えるものでも何でもない。日本の最大の安全保障上の脅威となっている北朝鮮もイスラエルと同様に、男女ともに徴兵制を敷いている。
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