植林によってアフガニスタンとタイの安定を考えた日本人たち

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  今日(17日)、大阪でビル火災があったが、気候変動は森林火災などの大惨事をもたらすようになっている。気候変動には植林が最も効果的だという説がある。『サイエンス』に2019年に掲載された論文によれば、大量に木を植えることが最も効果的な温室効果ガス削減方法だという。植林については、これまで紹介してきた通り、日本人は発展途上国で様々な取り組みをしてきた。今日も植林を生涯の仕事として取り組んだ二人の日本人を紹介しよう。

 難民救済事業や途上国支援に力を尽くした評論家の犬養道子(1921~2017年)さんは、「みどり一本」運動を推進していた。その構想を基にして1981年9月にUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)は、1979年末ソ連軍のアフガニスタン侵攻を契機にパキスタンに逃れたアフガン難民支援の一環として、植林プロジェクトを開始した。

犬養道子さん
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8A%AC%E9%A4%8A%E9%81%93%E5%AD%90

難民たちは調理や暖房用の薪にするために難民キャンプ周辺の木々を伐採していたが、森林伐採は生態系の破壊、地球温暖化、洪水・干ばつの増加、砂漠化などをもたらす。土地が再生しなければ、難民たちをはじめ、受入国住民たちの食の確保も困難になる。

犬養道子さんの祖父は首相を務めた犬養毅(1855~1932年)であった。犬養毅は満州国不承認、上海事変早期妥結、議会主義擁護を提唱していた。

 この事件の記憶から道子さんは、ひとりよがりのナショナリズムを日本からなくすために勉学に励んだという(「朝日新聞・天声人語」)。「国境線上で考える」とはそうした彼女の考えを端的に表す言葉だ。

 犬養首相は、5・15事件で暗殺される数日前に道子さんに「恕」という文字を書いてその意味を教えた。恕は「他人の心情を察し、思いやる」という意味がある。道子さんはその恕のような生き方を実践された。道子さんが犬養家に便所のくみ取りに来た朝鮮の人に飴玉をあげると、彼の目から涙がこぼれたという逸話もある(日経ビジネスオンライン)。

 犬養毅は、孫文らの辛亥革命を支援し、またタタール人の宗教指導者アブデュルレシト・イブラヒム(1857~1944年)はとともに、アジア諸民族の連帯とヨーロッパ列強からの解放を考えた日本の「亜細亜義会」の創設の契機をつくるなどアジアの国境の壁を除くことを考えた人物であったが、祖父のそのような考えは道子さんの人生にも多大な影響を及ぼしたのだろう。

 犬養さんは難民に冷たい日本に苦言を呈していた。2016年に日本で難民申請を行ったのは10、901人、そのうち認定されたのは28人だった。同じ年、ドイツでは695、733人が申請を行い、36.8%にあたる256、136人が認定された。

 犬養さんと同じように植林によって外国の安定に尽くした人に、タイ社会の安定づくりに尽くした三重大学名誉教授の梅林正直氏(1933~2020年)がいる。土壌学専攻で「黄金の三角地帯」の一部を成すタイ北部でケシ畑の代わりに梅の栽培を思いついた。梅は商品加工が容易で、高地に適している。標高の低いところではマナオ(タイのライム)を植えた。加工の技術も農民たちに教え、梅やマナオの多様な商品ができ上っていった。

村長(左)に梅の苗木を手渡す梅林正直さん(右)=1997年、タイのチェンライ県
https://www.asahi.com/articles/DA3S14612166.html

 梅林氏は父親から「ハタ(傍)の者をラク(楽)にすることが本当の働くこと」と言い聞かされて育った。1995年からおよそ20年の間に植えた梅の木はおよそ2万2000本、マナオは14000本になり、植樹のために私財2000万円を投じた。タイとの友好協力の功績が評価されて、2000年にタイ国友好賞、2008年にはタイの外務大臣賞を受賞している。

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