21世紀にピョートル大帝は要らない -時代錯誤の自民族中心主義(エスノセントリズム)

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民衆に向かって
嘘や欺瞞を執拗に流し続ける罪はとても重い
洗脳の言葉は民衆の心を強く束縛し心を歪める
悪事を正当化するために広められる嘘や欺瞞は
民族の精神を堕落させる ―セルゲイ・アスコルドフ(ロシアの哲学者:1871~1945年)『ロシア民族精神の深淵』より

セルゲイ・アスコルドフ(ロシアの哲学者:1871~1945年)
ウィキペディアより

 ロシアのプーチン大統領は昨年6月9日、「領土を取り戻し強化することはわれわれの責務だ」と語った。18世紀初頭にスウェーデンとの戦争に勝利し、バルト海に面するペテルブルグに新都を建設するなどバルト海地域の覇権を掌握してロシアをヨーロッパの大国に押し上げたピョートル大帝を引き合いにした発言だ。ひどく時代錯誤的な論理であり、このような考えが継承されていくならば、アスコルドフが言うように、ロシア人の精神を堕落させ、ロシアは今後も他国と紛争を起こしていくことになる。今年2月の時点でウクライナでは807万人の人々が避難民となり(NHK)、また、今年4月11日、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、ロシアのウクライナ侵攻で民間人8490人が死亡したと発表した。

ピョートル大帝時代のロシアの版図
https://slidetodoc.com/chapter-18-the-rise-of-russia-demystified-reading/?fbclid=IwAR2TxSGZF_VAMQ-LQyRViUeEXBjuU0ExxZ-U9DCuCc_zjbv7DWncP4Dgsz8

 ロシアのウクライナ侵攻に見られるように、他国や他民族の犠牲の上に自らの利益や発展を考えるナショナリズムを自民族中心主義(エスノセントリズム)という。武力で領土を拡大することを世界中の国が考え始めたら、国際秩序は成立し得ない。1990年8月にサダム・フセイン治下のイラクがクウェート併合を宣言した時、国際社会は国連安保理決議でイラクがクウェートから撤退しない場合の武力行使を容認し、実際に湾岸戦争でイラクを武力で撤退させた。この安保理決議の背景には武力で領土を獲得する考えが危険という思いを多くの国がもっていたことがあった。特に20世紀に引かれた国境線には民族や宗派などの社会的集合を考慮しない人為的なもの多く、世界には国内に少数民族を抱えたり、国外に同一民族がおかれたりするケースが少なからず存在する。

19世紀後半
ドイツ語を話す人々はバルカン半島に散らばっていた
第一次世界大戦やヒトラーの侵略の背景に
https://note.com/sekaishi/n/n03e0c6a27126

 過去の歴史を根拠に領土の拡大を図るのはヨルダン川西岸や東エルサレムでの支配を拡大しようとうするイスラエルも同様だ。イスラエルの右派勢力はエルサレムを支配することで古代ユダヤ王国の復活を主張し、「エレツ・イスラエル」の領土復活を目指す。「エレツ・イスラエル」とは「イスラエルの地」という意味で、古代ユダヤ=イスラエル王国時代のユダヤ人の最大版図を表わす言葉だ。米国内の福音派は「エレツ・イスラエル」が実現すれば、キリストの復活が早まり、千年の至福王国を建設でき、誰もが幸福を得られると本気で考えている。古代の歴史に領土の正当性を求めるならば、ローマ帝国が支配した地中海地域はすべてイタリアの領土になってしまう。

 プーチン大統領の発言に接して、下のようなマリオ・バルガス=リョサ(ペルーの作家)の2012年12月のノーベル文学賞受賞演説「読書と虚構を褒め称えて」を思い出さざるを得ない。日本をも巻き込む東アジアの緊張、ヘイトクライム、ヘイトスピーチなど志や知的地平が低い現象はすべてバルガス=リョサが指摘するところから生まれているに違いない。この言葉の意味ところを理解することが、ロシアのウクライナ侵攻によって混乱する今の国際社会には切実に求められている。

「独裁というものがひとつの国にとって絶対悪を意味し、暴虐と腐敗の温床となるという私の信念、独裁というものが癒すのに長い時間を必要とし、未来に禍根を残し、何世代にもわたって消えることのない悪習を創りだし、民主主義の再建を遅延させるほどの深い傷を残すという信念に基づいた行為です。
 私はあらゆる形のナショナリズム、というよりあの偏狭な宗教、志が低く排他的で、知的地平を切り裂き、民族に関する差別的な偏見を胸の内に隠し、たまたま生まれた場所という単なる偶然の結果を至上原理とし道徳的かつ存在論的な特権とする、あのナショナリズムというイデオロギーを憎みます。宗教と並び、ナショナリズムもまた、先の二つの大戦や中東の血なまぐさい現況のように、歴史上もっとも最悪の流血事件を引き起こす原因となってきました。ラテンアメリカがあれほど小国に分裂し、馬鹿げた小競り合いと論争に血道をあげ、天文学的な数値の金額を学校や図書館や病院ではなく兵器購入のために浪費してきたことに関して、ナショナリズムほど貢献したものはほかにありません。」

ペルーの民族衣装
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Traditional_girl_from_Peru.jpg?fbclid=IwAR3gCqKP2zSsaDXdrkhSUU0Vj0-1jaFOcXHH04sTvlNschssIgW2gA6REdc

アイキャッチ画像は『都会と犬ども マリオ・バルガス=リョサ』(杉山晃 訳)
https://yomitaya.co.jp/?p=126386

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