真珠湾攻撃から80年 ー「愛と赦し」の教え

映画「トラ トラ トラ!」より 淵田美津雄海軍中佐を演じた田村高弘日本語記事
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Translation / 翻訳

 日本が1941年12月8日に真珠湾を攻撃して、日米の戦端が開かれてから80年が経とうしている。淵田美津雄海軍中佐が送った「トラトラトラ」(ワレ奇襲ニ成功セリ)という暗号電報はハリウッド映画のタイトルになるほど有名だった。

映画「トラ、トラ、トラ!」のポスター
映画「トラ トラ トラ」

『真珠湾攻撃総隊長の回想』は淵田氏の自叙伝で、日本の戦争を現場で率いた人物の回想録として貴重な歴史的資料と言える。太平洋戦争の日本敗北の転換点となったミッドウェー海戦では被弾した空母赤城から脱出する際に両脚骨折という重傷を負った。原爆投下直後の広島では海軍調査団の一員として参加した。

東京を最初に空爆した後に中国の日本軍支配地域に不時着して捕虜となったジェイコブ・デシェーザー(Jacob DeShazer)氏のパンフレット「私は日本の捕虜だった」を読んでデシェーザー氏が聖書を心の支えに捕虜生活を送ったことを知り、キリスト教に関心をもつようになった。1950年に洗礼を受け、1952年からアメリカに伝道の旅に出かけた。

12月1日付朝日新聞で、内田知(さとる)牧師は、激しい戦争を生き延びることで淵田氏が悟ったことは「愛と赦し」だったのではないかと述べている。淵田氏は、戦争は互いに理解しないという偏狭な心によってもたらされたと説き、人間が人間を殺し合う戦争の愚かさや憎しみの連鎖を断ち切らなければならないことを、日本やアメリカで訴えた。

「愛と赦し」はイスラムという宗教のテーマでもあり、またあらゆる宗教にとって共通の普遍的な価値観と言えるだろう。

私の心はあらゆる形態を受け容れるようになった。
羚羊(ガゼル)のための牧草地、キリスト教修道僧のための僧院
偶像崇拝者の聖地、巡礼者が周囲をくるくる回るカアバ神殿
トーラー(ユダヤの律法書)の刻印、クルアーン(コーラン)の書
私は愛の宗教を告白する。
愛の隊商がどこに向かおうとも、愛こそが私の宗教であり、信仰である。

 これはスペイン・ムルシアで生まれたイスラム神秘主義(スーフィズム、内面を特に重視するもの)の思想家イブン・アラビー(1165~1240年)が詠んだ詩で、彼は人間とは神を映し出す鏡であり、人間の本来の姿は「完全人間」であると主張する。「完全人間」とは、様々な形で絶えず現われる神を自らの心を変えて受け容れる者である。それは、宇宙のあらゆる存在に神を見て、様々な形態で現われる神を賛美する心をもつ人間である。アラビーは、異教徒や罪人までにも神の顕現を見る寛容な心をもった人間こそが「完全人間」であると考えた。

イブン・アラビーの詩選集
イブン・アラビー

 寛容を説くイブン・アラビーの思想には、イスラム、ユダヤ教、キリスト教が共存していたアンダルス(イスラム・スペイン)の歴史的・社会的背景があるだろう。彼が教育を受けたのは、イスラムの文化や学術の中心であったスペインのセビリアで、30年間セビリアに住む間に、スペインや北アフリカの様々な地方に出かけ、コルドバで哲学者・法学者・医学者で、アリストテレスの全著作に注解を与えたイブン・ルシュド(1126~98年)に直に会ってその思想に触れるなど自らのスーフィズムに関する考えを深めた。

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宮田律の中東イスラム世界と日本、国際社会

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