石油価格が高騰を続け、10月8日には1バレル80ドルを突破したが、コロナ禍が収まりつつあって石油ー需要が高まったこと、またアメリカのシェール石油が増産されていないことなどある。シェール石油の生産が伸びない背景にはアメリカ国内の脱炭素の動きがあると見られ、その結果世界市場における中東原油への依存を高めることになっている。
世界の石油需要における中東の比重が高まるということは、中東の政治情勢に石油価格が左右されかねないということにもなる。
日本が最も石油を買っている国のサウジアラビアは、29日、駐サウジアラビアのレバノン大使を追放し、サウジアラビアの駐レバノン大使を召還した。その背景には、レバノンのジョージ・クルダーヒー・メディア相が、25日にアルジャジーラで放送されたインタビューの中でサウジアラビア主導のイエメン・ホーシー派との戦いを批判したことがある。サウジアラビアは同時にレバノンへの輸出をすべて停止した。クルダーヒー氏は、ホーシー派には自衛のために戦っていて、他国を攻撃しているわけではなく、イエメン紛争を不合理なものと形容した。
サウジアラビアやUAEなどの国々は、2015年からホーシー派をイランが後押ししているとしてホーシー派への空爆など攻撃を加えている。
これに対して、サウジアラビアはクルダーヒー氏の発言がサウジアラビアやアラブの同盟国への侮辱だと反発し、またサウジアラビアはヒズボラがすべての港湾をコントロールしているレバノンが麻薬の流出を停止できていないと主張するようになった。
イエメン紛争では13万人が死亡し、そのうち市民の犠牲者は12、000人ほどで、そのうちの4分の1が子供たちと見積もられている。(アルジャジーラ、21年3月23日)また、250万人の人々がコレラに感染し、2000万人以上が飢餓状態に置かれている。
サウジアラビアなどのイエメンへの軍事介入は「戦争犯罪」という批判も国際社会には根強くあるが、アメリカやイギリスなど欧米諸国はサウジアラビアへの武器売却を継続している。
中東湾岸情勢が日本経済に重大な影響を及ぼすことは、1990年8月にサダム・フセイン政権のイラクがクウェートに侵攻した際にも見られた。この時も同年9月下旬から10月上旬にかけて原油価格が急騰し、株価が下落、日本のバブル経済崩壊の一因であったとも考えられている。
この湾岸危機の際にアメリカから日本の貢献を求められ、自民党内からは自衛隊の派遣を主張する声もあったが、中曽根内閣で官房長官を務めた後藤田正晴氏は「アリの一穴」になると言って自衛隊の派遣に反対した。ひとたび自衛隊を派遣すれば歯止めがかけられなくなるというのが後藤田氏の考えだった。後藤田氏はイラン・イラク戦争の際にも自衛隊の掃海艇の派遣に反対している。
湾岸戦争終結後、海部内閣は後藤田氏がイラン・イラク戦争の際に反対した掃海艇を湾岸地域に派遣したが、それ以来、後藤田氏が危惧したように、様々な機会で自衛隊の海外での活動範囲や規模は拡大し、さらに安倍政権では集団的自衛権の行使が容認され、他国の戦争に自衛隊が参加する道を開いた。自衛隊の活動規模が拡大するのは、イラク戦争や「テロとの戦い」など、いつも中東でのアメリカの戦争を契機にするものだった。
いまや、敵基地攻撃まで国会議員の間では議論されるようになった。石油価格の上昇と、明日の総選挙を前にして日本が重大な岐路に立たされていることをあらためて意識せざるを得ない。
写真、真ん中がクルダーヒー氏、彼はテレビの司会者などをしていた。
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