制裁よりも援助を ―中村哲医師が語ったアフガニスタンの窮状

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Translation / 翻訳

「いわゆる国際社会にとって重要なのは、タリバン政権の弱体化であって、数万人の生命など瑣末な出来事であった」(中村哲『医者井戸を掘る』石風社、128頁)


 これは2001年にタリバン政権に科された国連による制裁のことを指している。オサマ・ビンラディンのアルカイダはその前年にイエメンのアデン港に停泊する米海軍の駆逐艦コールに自爆テロを行い、米兵10人が死亡し、アルカイダをかくまうタリバンに制裁が科せられた。しかし、国連による制裁によって苦しむのはタリバンではなく、アフガニスタン国民であることを中村哲医師は強く警告している。現在のアフガニスタンは2001年に中村医師が反発していた制裁が再びタリバン政権に科せられ、アフガニスタンは悲惨で、過酷な状態に陥り、また国際社会はアフガニスタンの窮状に無関心であり続けている。


 タリバンの穏健化や現実化をもたらすためにもアフガニスタンの民生の安定が求められているが、日本人もまた現在のアフガニスタンの「修羅場」を知ることは少ない。

アフガニスタンの干ばつ
https://www.theguardian.com/global-development/2021/sep/21/drought-war-livelihoods-afghan-farmers-risk-taliban-security-forces-kandahar?fbclid=IwAR2iTHlF9Vq9NzsDl2AGvTqHURp3aJ5p7RsWpzVus1Mt2x87WjVgWphxt8U


 米国はアフガニスタン中央銀行へのタリバンの関与を断つことが金融システム信頼回復になると考え、タリバンと関係の深い中央銀行幹部の更迭を考えているが、タリバンがアフガニスタンを支配している以上米国の構想や要求は不可能に近く、アフガニスタンの中央銀行は円滑に機能しないままだ。


 昨年のタリバンの政権奪取以降、アフガニスタンの銀行システムは事実上崩壊し、現地通貨アフガニーは暴落し、アフガニーとドルも不足している。米国バイデン政権はアフガニスタンの在米資産の半分を911の被害者遺族の補償に用いる可能性もあり、アフガニスタンの資産全面解除は目下のところ考えていない。また、タリバン政権以前は国家予算の7割を占めていた海外からの支援も途絶えている。アフガニスタン中央銀行は、合法的な商取引や人道的支援の処理や決済など、基本的な中央銀行機能を果たすことができないままで、そのためアフガニスタンでは基本的な経済活動でさえも大幅に制約されている。

アフガニスタンの人々は飢餓に苦しんでいる
https://www.dw.com/en/afghanistan-is-starving-and-the-west-is-partly-to-blame/a-62788725?fbclid=IwAR3Cnt1hfR9dg8V7SExt-sOoH1131crfAxUwoFpf3lXcjY5AR_ksWRKh9ck


 タリバン政権に対する米国などによる経済的制約がアフガニスタンの飢餓を深刻にして、また人々の健康を阻害することになっている。国際連合世界食糧計画(WFP)は5歳以下の子どもの100万人が食料不足のため死に瀕していると報告している。また、WFPによれば国民の3分の1以上が飢餓状態に置かれ、97%が貧困ラインよりも下の生活を送っている。アフガン人の90%が食料不足に苦しみ、家計の負担軽減のために子どもたちが労働するようにもなっている。世界銀行によれば、主食のコメや小麦の価格も今年の7月から8月にかけて倍となり、さらに上がり続けている。

「ほんとうのアフガニスタン」に掲載された写真だが、写真を撮った中村医師の優しい目線が感じられる


 下は再び中村哲医師による2001年の国連による制裁への見解だが、いまの日本や国際社会に教訓を与えるもので、大いに傾聴しなければならないだろう。日本政府も一刻も早いアフガニスタンへの支援を考え、米国や国際社会の援助をも促してほしいものだ。


「その直前に国連制裁が発動されて、国際社会は、あの飢餓地獄のアフガンに、はじめはなんと食糧まで断とうとした。国際的に孤立する中、それ以外の対策は省みられなかった。これが真相ですね。干ばつの餓死者百万人などと一口で言いますが、いまの日本人には想像 もつかないでしょう。それは悲惨きわまりない修羅場であった。あのころ、日本の報道も仏像破壊のことばかりを非難していましたが、現地はそれどころじゃなかった。明日食える かどうかというときに、石の像が一つ壊れたってというのが、九九%の人の思いだった。そういうことです。
たしかにタリバン政権は国際社会というものに対して、つき合い方が下手だったかもしれない。しかし、だからといって餓死者百万人の天災に苦しんでいる人々を放置するばかりか、非難を浴びせかけ、援助停止の制裁までするとは、いったい『国際社会』ってなんなのかと思ってしまいますよ、これは。」(中村哲『ほんとうのアフガニスタン』191頁)

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宮田律の中東イスラム世界と日本、国際社会

コメント

  1. hirohisauchida より:

    宮田先生の中東関係の記事は毎回読んでいます。毎回、小さな子供たちの姿、目を見るたびにせめて子供たちの将来に何かしたいと心を動かされます。どこの地域の紛争でも、未来に対して何もバイアスがsかかっていない、まっさらな幼子たちのことが気がかりです。

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