映画の大林宣彦監督は、「僕たちは歴史の過去を変えることはできないが、映画で歴史の未来を変えることはできるかもしれない。映画を見た人が、一人一人の努力で平和を導いていくことをやれば、映画で世界の平和をつくり出してみせる。」と語っていた。
https://www9.nhk.or.jp/nw9/digest/2019/08/0806.html
2014年から毎年夏に「広島イラン愛と平和の映画祭」が開催されている。映画祭はNPO法人「モースト」の主催によるもので、モーストは、2004年からイランの化学兵器被害者のイラン人に対して医療支援を行い、広島に招待する活動を行ってきた。2017年6月には、モーストの関係者たちが1980年代のイラン・イラク戦争中に化学兵器の攻撃を受けたイラン北西部のサルダシュトで化学兵器の犠牲となった人々の追悼を行った。
「広島イラン愛と平和の映画祭」で上映された作品は、東京でも例年上映されているが、上映されたことがある作品の「アブーゴライブ海峡=ロスト・ストレイト」は1988年7月、イランが国連安保理のイラン・イラク戦争停戦決議を受け入れる直前のアブーゴライブ海峡での攻防をめぐるものだ。主役の兵士たちが前線に赴くまでにおびただしい数の難民、負傷兵、戦死者たちが引き揚げてくる。イラクが国際法に違反して使用した化学兵器の被害者たちの皮膚には無数の水疱ができ、イラン兵たちは防毒マスクも携行している。映画の中では、イラン兵が「我々は戦っているのではない。祖国と家族を守っているのだ。」「戦争に勝者はいない。勝つのは武器商人だけだ。」などと語る。

2018年のイラン・ファジュル映画祭で作品賞を受賞した映画だが、映画はイラン人の反戦への想いをよく表現している。イランではイラン・イラク戦争が終わって30年、日本よりも戦争の記憶が風化していない。イランの人々が戦争に対する嫌厭を強くもっていることが伝わってくる。血だらけでうめき声を上げる負傷兵たちを手当する様子は、自由を求めて格闘するイランの人々と重なるようだった。

映画だけでなく、その他の芸術、文学、また当然のことながら歴史学の研究でも歴史の未来を変えることができる。イラン映画の中で語られるように、現在の国際社会ではウクライナ戦争に見られるように、武器商人が戦争に勝つ構造に一向に変化がない。性能もまったく明らかでないイージスアショア、必要以上に多いと思われるF35戦闘機、トマホークミサイルなど高額な防衛装備品を買わなければ、莫大な費用を医療の充実や少子高齢化対策に有効に使えるだろう。
アイキャッチ画像は平成8年9月、30周年を迎える「日曜洋画劇場」について記者会見する淀川長治さん(右)と大林宣彦監督=東京都内のホテル(産経新聞より)
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