ネオナチとヘイトクライムは要らない ―排除の論理を放棄する

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人間性とは、人間同士が互いに異なった個性をもつ人間であることを認め合うことである ――ハンナ・アーレント

紀伊国屋書店より

 ロシアのプーチン大統領はウクライナからナチスを一掃すると言って侵攻を始めたが、ネオナチはロシアにも存在する。ロシアでは、タジキスタンやキルギスなどの中央アジアからの出稼ぎ労働者、ダゲスタンなどカフカスのムスリムたちがネオナチのヘイトクライムの対象となり、ロシアは民族的マイノリティにとっては最も危険な国と言われてきた。2000年代には9歳のタジク人の少女がスキンヘッドの集団に刺殺される事件が発生したり、ネオナチの集団がタジク人とダゲスタン人の青年を斬首する動画をネットにアップしたりすることもあった。プーチン大統領は自国のネオナチ的傾向は考慮に入れていないかのようだ。

在日ロシア大使館近くで抗議の声をあげる在日ウクライナ人たち=2022年2月23日午後2時18分、東京都港区、福留庸友氏撮影
https://digital.asahi.com/art…/photo/AS20220223001698.html


 ヨーロッパの人種主義的傾向はウクライナでの戦争にも見られる。イギリスなど欧米諸国は、自国民がウクライナでロシア軍相手に戦うことを問題視することがない。例えば、ウクライナの外国人義勇兵の2割がイギリス出身だが、イギリス政府は自国民がシリアで自爆攻撃すれば、そのイギリスの自宅や家族を捜索するが、ウクライナで戦う義勇兵は問題視することがない。イギリスの義勇兵が戦う相手は、シリアでもウクライナでもロシア軍だが、シリアでの活動だけが問題視されている。つまりイギリス政府当局には自国民の義勇兵について「二重基準」がある。


 ムスリムの義勇兵たちは、1980年代、彼らがアフガニスタンでソ連軍と戦闘を行っている時には何の問題にもならなかった。しかし、2001年に911の同時多発テロが発生し、このテロを起こしたとされるアルカイダの中にアフガニスタンでソ連軍と戦った義勇兵たちがいたことが判明すると、中東イスラム世界で戦う義勇兵たちに対する警戒感が急速に生まれるようになった。
 また、911やイラク戦争を経て、ヨーロッパ諸国などでテロが繰り返し発生するたびに、ムスリム義勇兵たちに対する欧米諸国政府や社会の見方が厳しくなっていった。イギリスでは今年1月に「ジハード」の美徳を説いたとしてリビア出身のアブー・バクル・デガイェス(1968年生まれ)に有罪判決が下された。彼の二人の息子はシリアに赴きアサド政府軍と戦いで亡くなっている。

「プーチンはテロリスト」
ロシアによるウクライナ侵攻に抗議するデモの参加者ら。仏パリで(2022年2月24日撮影)。(c)Thomas COEX / AFP
https://www.afpbb.com/articles/-/3392075?pid=24254195


 ロシアのウクライナ侵攻は、自国の利益しか考えないナショナリズム、あるいはプーチンという政治家の名誉欲によって、引き起こされたと言える。戦争や、またヘイトクライムを起こす論理や仕組みはいつの時代も同じで、排除の論理から引き起こされている。対立や敵対よりも宥和や共存、共生の姿勢をもつことのほうが各国、各宗教・民族の人々の心の障壁を低くし、国際社会がヘイトやテロ、紛争などの負の連鎖から脱却することにもなる。


ふたつにみえて世界はひとつ
そのはじまりもその終りもその外側もその内側もただひとつにつながる
そのひとつの息が人間に息(いのち)を吹き込んでいます


(エハン・デラヴィ・西元啓子 (編集), 愛知ソニア (翻訳)『スーフィーの賢者ルーミー―その友に出会う旅』より)

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