政治的動機は正しい? -ナチズムと現代日本

日本語記事
スポンサーリンク
Translation / 翻訳

 財務大臣、副総理などを務めた麻生太郎氏は、2017年8月、麻生派研修会で、「少なくとも(政治家になる)動機は問わない。結果が大事だ。何百万人も殺しちゃったヒトラーは、いくら動機が正しくてもダメなんだ」述べた。
http://digital.asahi.com/articles/ASK8Y6T80K8YUTFK01D.html


 ヒトラーの「動機」とは何だったのだろう?それを知ることは、現在の国際社会や日本への教訓にもなるだろう。


 村瀬興雄著『ナチズム ドイツ保守主義の一系譜』(中公新書)によれば、ヒトラーは、「過去のドイツ帝国はすばらしかった。帝国は外部に対して強力であり、内部に対してもがっちりと構成されていて、ただ国家公民のためにのみ配慮していた。それに対して現在のドイツはなんというみじめな状態であることか。敗戦と屈辱、ビスマルクのかわりにエルツベルガー、戦勝国にへつらう大臣たち―まことになげかわしいありさまではないか。いったい、なぜドイツがかくも衰退したのであろうか?それは敵国とユダヤ人がドイツに対して仕掛けた世界大戦にまき込まれて、敗北したからである。ドイツ革命はユダヤ人と犯罪人との起こしたものだ。ヴェルサイユ条約はドイツを永遠に奴隷化するための機構だ」などと、ほとんどすべての演説で語っていた。


 彼の思想の根幹にあったのはドイツ民族至上主義で、それはドイツの伝統的膨張主義の延長にあり、経済界、官僚界など支配勢力にも一致した考えがあった。ヒトラーによるヴェルサイユ条約の否定は、日本国憲法を占領軍の押しつけと断じ、「憲法を国民の手に取り戻すことから、始めていきたい」と繰り返し述べる安倍首相など日本の保守勢力の考えと似ている。


 自民党の改憲草案には「日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助けあって国家を形成する」(前文)「日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない」(第3条)とあり、きわめてナショナリスティックな響きをもっている。毎日新聞が2015年5月1日から31日に実施した世論調査では、憲法9条の改正については76.3%が「反対」と回答した。
http://mainichi.jp/feature/afterwar70/since1945/vol5.html


 ヒトラーが反ユダヤ主義の考えをもつようになったのは、現実世界にある腐敗堕落現象がユダヤ人の犯罪的活動と密接に結びついているという認識が背景にあった。彼が学生時代を過ごしたウィーンでは人口の1割ぐらいのユダヤ人たちが貧民街を形成し、いかがわしい行為をしたり、犯罪者になったりする率が非常に高かった。当時のユダヤ人たちは現在のヨーロッパで貧困な状態にあるムスリムたちと同様な状況にあるし、マイノリティに対する偏見は日本のヘイト・グループの行動にも通底するだろう。


 ヒトラーの動機―他国を犠牲にして民族・国家の繁栄を考え、マイノリティを排除するというナショナリズムの考えは正しいとは決していえない。日本の政治家は正確な歴史認識をもつべきであり、でなければ過去の過ちを繰り返すことになるだろう。

アイキャッチ画像は

ドイツの伝統衣装
https://www.pinterest.jp/pin/467670742533254848/

もうすぐ秋ですね
http://livedoor.blogimg.jp/izaya/imgs/c/4/c4ae32f3.jpg

日本語記事
miyataosamuをフォローする
Follow by E-mail / ブログをメールでフォロー

If you want to follow this blog, enter your e-mail address and click the Follow button.
メールアドレスを入力してフォローすることで、新着記事のお知らせを受取れるようになります。

スポンサーリンク
宮田律の中東イスラム世界と日本、国際社会

コメント

タイトルとURLをコピーしました