暗殺、米ソ対立、戦争で閉塞されたアメリカの若者の心を急速にとらえたビートルズの愛

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 1963年11月22日、ジョン・F・ケネディ大統領は暗殺された。アメリカはベトナムに本格的に介入し始め、その前年の10月から11月にかけてキューバ危機が起こり、冷戦の絶頂期とも言える時代だった。テロ、戦争、歪んだナショナリズムが見られる現在と時代状況が似ているようだ。

 ケネディ大統領はワシントンのアメリカン大学で1963年6月10日に「互いの相違点が存在することを認めよう。しかし、同時に互いの共通の利益にも目を向け、相違点の解決に努力しよう。 そして、もし今相違点を克服できないとしても、少なくとも多様性を認めるような世界を作る努力は成せる。なぜなら、最終的にはわれわれの最も基礎的な共通点は、皆この小さな惑星に住み、皆同じ空気を吸い、皆子供たちの未来を大切に思っている。」と語った。ケネディ政権時代のアメリカに問題がなかったわけではないが、相違点の解決に努力しようという呼びかけはウクライナ戦争などナショナリズムが席巻するいまの時代にも通用する呼びかけだ。

冷戦の絶頂期にあった
https://www.goalcast.com/jfk-quotes/

 ケネディ大統領が暗殺されたと同じ日にビートルズのセカンド・アルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ』がリリースされ、さらに同年12月26日、アメリカにてビートルズのシングル盤「I Want To Hold Your Hand(抱きしめたい)」がリリースされ、発売後1週間で80万枚、4週間で250万枚を売った。アメリカでのデビュー・アルバム『Meet The Beatles』は翌年1月20日に発売され2月15日付けの『ビルボード』紙で1位になり、17週連続で1位を続けた。暗殺や戦争や米ソ対立の閉塞された時代に、ビートルズの自由や愛の情感はアメリカの若者たちの心をあっという間に捉えていった。64年2月7日に初めて訪米し、9日に出演した「エド・サリバン・ショー」は視聴率72%を記録した。

ビートルズ「エド・サリバン・ショー」
https://www.boardwalk2018.jp/product/440


 自由と平和と愛のパワーで満たしてくれるビートルズの歌は将来への希望を表現するものでもあった。

〔ヒア・カムズ・ザ・サン〕
Here comes the sun, here comes the sun
And I say it’s all right
ほら、太陽だ。お日様の光だ
もう大丈夫。僕はつぶやく
Little darling, it’s been a long cold lonely winter
Little darling, it feels like years since it’s been here
ねえ、長くて孤独な冬だった
そう、何年もの間、そうだった気がする
Here comes the sun, here comes the sun
And I say it’s all right
ほら、太陽だ。暖かい光だ
もう大丈夫。僕は声を上げる 和訳はhttp://sate-konokyokuwa.blog.jp/2018-10-31.html より

 奇しくもケネディが暗殺された1963年には日本の仏教哲学者の鈴木大拙(18701966年)がノーベル平和賞候補となった。大拙が英文で「ザ・ベル・オブ・ピース・アンド・リバティー(平和と自由の鐘)」と揮毫した鐘が石川県白山市美川北町の徳證寺(とくしょうじ)にあり、今年3月21日にはロシアによる軍事侵攻に苦しむウクライナの人々に届けとばかりに鐘をつく行事が催された。

 平和と自由は、ケネディ暗殺後ビートルズに心酔したアメリカの若者たちが切に求めたものだった。今の世界は日本も含めて偏狭なナショナリズムが台頭し、戦争など暴力が席巻し、ケネディ暗殺後の時代状況に似通っている。ジョン・レノンは日本で生活し、鈴木大拙の著作や白隠、仙厓の自由奔放な生き方に共鳴していたと見られている。愛、自由、平和の情感はイスラム神秘主義(スーフィズム)の中にも見られるが、時代はビートルズ的なものを再び待望しているのかもしれない。

ビートルズ出演の「エド・サリバン・ショー」の聴衆たち
https://www.cbsnews.com/pictures/the-beatles-backstage-at-the-ed-sullivan-show/?fbclid=IwAR1dCbu0oBuR_Lj27KMjQ70M1O1U0x5WxqBKmHkipiSrK1cJkb5HPqkIYuE
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