教えるとは 希望を語ること
学ぶとは 誠実を胸にきざむこと
これはフランスの詩人ルイ・アラゴンの「ストラスブール大学の歌」という詩の一部で、教育や学問の本質をよく表現している。1943年11月にフランスのオーヴェルニュ地方のクレルモン・フェランでストラスブール大学の教授・学生たちが殺害されたり、多数が強制収容所に大量に送られたりしたことに対する抗議や追悼の想いが込められた詩である。薬学を専攻する教授・学生たちはナチスによる化学兵器製造への協力を拒否した。ナチスへの抵抗の意思と学問研究の良心は決して弾圧にひるむことがないことを示している。ストラスブール大学はナチス・ドイツの占領とともに、1939年にクレルモンに移転し、教育・研究活動を継続させていた。
〔ストラスブール大学の歌〕
教えるとは 希望を語ること
学ぶとは 誠実を胸にきざむこと
かれらはなおも苦難のなかで
その大学をふたたび開いた
フランスのまんなかクレルモンに
古今の学に通じた教授たち
審判者の眼差しをもった若者たち
君たちはそのかくれ家で
大洪水の明けの日にそなえた
ふたたびストラスブールへ帰える日に
http://poem.oshimahakko.work/nenpu/kishorapa.html
アラゴンは「今よりはかずかずのクレベエル(ストラスブール出身の著名な軍人)たち/それは百人となり 千人となり/つづく つづく 市民の兵士たち/われらの山やまに 町まちに/義勇兵とパルチザンたち」と詠み、いずれ義勇兵やパルチザンの戦いがナチスに勝利し、ストラスブールで教え、学ぶことが復活することを確信していた。そこには教育や学問が武力には決して屈しないという強い想いが込められていた。

ウィキペディアより
人々の心は軍事力には屈しないということは、近年ではアメリカのイラク占領やアフガン占領にも見られた。二年前、アメリカはアフガニスタンから撤退していったが、アラゴンの表現を借りれば「つづく市民の兵士たち」のようなタリバン運動のうねりによって撤退を余儀なくされた。 ロシアのウクライナ戦争、クリミア併合についても同様だ。8月9日、ロシアが占領するクリミア半島サキ空軍基地で、大規模な爆発が起こり、ロシア軍機8機が破壊され、ロシア人操縦士や技術者など60人が死亡されたとされる。クリミア半島は2014年にロシアが一方的に併合し、ロシア化を進めたが、ウクライナの人々がパルチザンとなって、軍事的抵抗を行い、クリミア半島などウクライナ南部でのロシアの戦いを大いにてこずらせるようになっている。

https://www.alamy.com/two-young-girls-and-middle-aged-woman-looking-at-their-cell-phones-strasbourg-alsace-france-europe-image178741591.html?fbclid=IwAR0w21XBDZQXdu7jfvhxYHZ7ycbC9tADurx7HXGOASYPShWoDLovubom3Jk
パルチザンは、自らの故地を占領したり、侵略したりする勢力に対して抵抗の闘いを行い、占領者たちを駆逐し、故地の平和や安定を図ることを考えている。第二次世界大戦中にイタリア・パルチザンとしてナチス・ドイツとの戦闘に参加した彫刻家のウンベルト・マストロヤンニ(1910~1998年)は、パルチザンへの参加が契機となり、平和への祈りが生涯のテーマとなった。イタリアの主要都市にある平和祈念像はほとんど彼の作品だ。1985年のヘンリー・ムーア大賞で彼による「ヒロシマ」が大賞を受賞した。「戦争というものは、最も卑しい罪科の多い連中が権力と名誉を奪い合う状態をいう」(トルストイ)、ウクライナ侵攻を行ったプーチン大統領を見ればまさに言い得る表現だが、そんな戦争のバカらしさをマストロヤンニや冒頭のストラスブール大学の教員・学生たちも感じていたのだろう。

2021年10月
アイキャッチ画像はストラスブール大学
https://www.istockphoto.com/jp/%E5%86%99%E7%9C%9F/university-of-strasbourg?fbclid=IwAR1dBMcLauYG0PMQLNvbj4j3BiRYyVeKad0Rz2NEIjtKIZl8HMdDqh-2olc
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