「アラブが部族同士で戦う限りいつまでも無力で愚かな民族にすぎないぞ。 貪欲で野蛮で残酷だ、君のようにな」。これは映画「アラビアのロレンス」の一シーンのセリフだが、ロレンス(ピーター・オトゥール)が、道案内のアラブ人を殺害したハリト族の指導者アリー(オマー・シャリフ)に浴びせた言葉である。映画は、欧米のオリエンタリズム(東洋を蔑む感情)も表れているが、映画の最後の部分、ダマスカスを占領したアラブの部族たちが一堂に会した「アラブ国民会議」も合意に至らないままに終わってしまう。
第一次世界大戦にオスマン帝国から独立しようとした東アラブ世界のアラブ人たちの分裂ぶりを映画は描いていたが、この当時のアラブ人やアラブ世界の様子は現在でも大きく変わっていないかのようだ。

サウジアラビアの王族は、経済的に、あるいは金銭的に貪欲で、野蛮で残酷にも同国人のジャーナリストを殺害してしまう。サウジアラビア、UAE、エジプトなどは2017年に、イランとの親密な関係、エジプトのイスラム主義組織ムスリム同胞団への支援などを理由にアラブの国カタールと断交し、さらにアラブ同胞の国であるイエメンをサウジアラビアやUAEなどが空爆を続けてきた。
アラブの統一がピークに達したのはエジプトのナセルが指導し、スエズ運河国有化を行い、植民地主義を排除した時代だったが、その後、アラブ世界は、1979年にエジプトがイスラエルと単独和平を結び、またイラン・イラク戦争の際に、異民族のイランをアラブのシリアやリビアが支援を行ったことにも見られた。さらに1991年の湾岸戦争では、アラブ諸国が欧米などの多国籍軍に加わってイラクと戦った。
アラブ世界が野蛮で、残酷と形容されるように人権意識や民主主義が定着しない理由は、現在の支配層である王族が武力によって政権を奪取したり、軍事クーデターによって軍人が支配したりする政府が長期にわたって統治したことも理由や背景として考えられるだろう。すなわち、力による権力の奪取という政府の成り立ちからして、政敵に対しては冷酷、残酷に臨まざるを得ず、猜疑心の強い政府は、政府批判を許すことができないままにある。
こうしたアラブ政府の現状は、寛容や愛を説くイスラムの教義とは関係ないが、「アラブの春」に見られたように、アラブ世界の若者たちの間には民主主義や人権意識が次第に定着していることは明らかで、アラブの将来の世代が「野蛮な世界」を打ち崩してくれることを期待したい。
アイキャッチ画像は映画「アラビアのロレンス」
アカバ攻略
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アラブの女性
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