徴兵を拒否する論理 ―トルストイ的生き方を貫徹した日本人

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Translation / 翻訳

 ロシアのプーチン大統領の予備役を部分的に招集すると発表したことを受け、ロシア発の飛行機は予約が殺到するようになった。死ぬだけの大義も曖昧な戦争に駆り出されるのはとんでもないという意識の表れだろう。


 女優の杏さんがギターの弾き語りで歌う話題になった「教訓 Ⅰ」は下のように歌われる。
命はひとつ 人生は一回
だから 命を すてないようにネ
あわてると つい フラフラと
御国のためなどと言われるとネ
青くなって しりごみなさい
にげなさい かくれなさい
https://www.youtube.com/watch?v=8Oo_DaRTJWM

杏さんギター弾き語り 加川良さんの「教訓I」。
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2004/14/news148.html


 トルストイの『アンナ・カレーニナ』『イワンの馬鹿』などの翻訳を行った北御門二郎)1913~2004年)は、トルストイの信条に影響されて「人を殺すくらいなら、殺される方を選ぶ」と死刑覚悟で兵役を拒否した。


 熊本のギリシャ正教会の家庭で育った北御門は旧制高校時代にトルストイを読んで魂を揺さぶられるような想いになった。東大英文科に進学したものの、トルストイを原文で読むために満州のハルビンに赴き、ロシア語の習得に専念したが、満州で見た日本軍の残虐行為に戦慄を覚えて、トルストイの絶対平和主義の道を選ぶことを決意する。日本に帰国すると1937年7月7日に中国との間で盧溝橋事件によって日中戦争が勃発し、国全体が戦争に前のめりになる中で1938年に徴兵拒否の意思を表明し身を隠したりしたが、同年4月22日に家族に懇望されて徴兵検査を受けるが、徴兵官から心を病んでいると見なされて兵役を免れた。

https://note.com/_konoano/n/n7af56b84e74b


 その直後の1938年5月26日の北御門の日記には中国戦線に従軍した上等兵の談を記録し、「殺人、強盗、放火、強姦、罪として犯さざるなき戦争の楽屋話しだった。悪しき種族どもよ、汚らわしき人類よ、私は私がその一員であることを思うと、赤面せずにはいられない。」としたためている。


 戦争の熱狂から逃れるように、熊本県の球磨郡水上村で農業を営みながらトルストイの著書を読み、翻訳を行うようになった。北御門二郎は、トルストイの「愛国心が家族への愛情と同じように、人間にとって自然な感情である。しかしそれは決して美徳ではない。愛国心ゆえに隣人を傷つけるとするなら、むしろ罪悪だと言わなければならない。」という言葉に強く動かされた。「土を耕し他の力に頼ることなく生活するものが国の力である。ロシアの国力は兵力ではない。その鍬(くわ)である。」というトルストイの考えの通り北御門氏は「自分で作った野菜や果実の素朴な味わいと山から引いてきた水の美味しさがささやかな贅沢という暮らし」ぶりだったという。
http://h-kishi.sakura.ne.jp/kokoro-292.htm


 「いっさいの暴力や欺瞞と闘うために心を尽し霊を尽し力を尽し意を尽す」をモットーにした北御門の生き方はトルストイの説いた平和への理念をそのまま実践したものであった。


 ロシアの兵力こそが国力と考え、軍事で領土の拡大を図り、武力で人の心を支配しようとするプーチン大統領にはトルストイの訴えや北御門の生き方を知ってほしいものだ。ドイツは徴兵拒否をするロシア人たちを「自由民主主義を愛する人は誰でもドイツで歓迎される」(マルコ・ブッシュマン法相)と受け入れる意向を明らかにしている。日本政府にもそのような検討ができないものかと思ってしまう。
アイキャッチ画像は https://dokusume.shop-pro.jp/?pid=159009956 より

お孫さんも翻訳家になられたようです
https://note.com/_konoano/n/n7af56b84e74b
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