カンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを「桜桃の味」(アッバス・キアロスタミ監督作品、1997年)で自殺願望がある主人公にアゼリー人(トルコ系民族)の老人は次のように語る。
「あんたの目が見ている世界は本当の世界と違う。見方を変えれば世界が変わる。幸せな目で見れば、幸せな世界が見えるよ。・・・人生は汽車のようなもの、前へ前へ、ただ走っていく。そして最後に終着駅に着く。そこが死の国だ。死はひとつの解決法だが、旅の途中で実行したらだめだよ。希望はないのか?朝起きたとき、空を見たくはないかね?夜明けの太陽を見たいとは思わないかね?赤と黄に染まった夕焼け空をもう1度見たくないか?月はどうだ?星空をみたくないか?・・・あの世から見に来たいほど美しい世界なのにあんたはあの世に行きたいのか?もう1度泉の水を飲みたくはないかね?泉の水で顔を洗いたくないのかね?桜桃の味を忘れてしまうのか?」(IMAGICA・DVDの字幕を加筆)

https://www.sensacine.com/actores/actor-528492/fotos/detalle/?cmediafile=21355452
「無常観」は現代のイラン映画でも描かれることが多い。アッバス・キアロスタミの「風が吹くまま」は、テヘランから遠く離れたクルド人の村にテレビのクルーややって来て、その地方で伝統的に行われる独特の葬儀の形態を取材するために、老婆の死を待つが、その中で人間の生のあり方を知っていくというストーリー展開だ。
「風が吹くまま」で、老医師は次のように語る。
「(人間死んでしまえば)こういう美しい世界が見られなくなる 神が授けてくれた素晴らしい世界がな あの世も美しいなんてどうしていえる あの世から戻ったものなどいないではないか “天国は美しいところだと人は言う だが私にはブドウ酒の方が美しい 響きのよい約束よりも 目の前の葡萄酒だ 太鼓の音を遠くで聞けば妙なる調べ”」
キアロスタミ監督は日本の小津安二郎監督の映画に影響され、小津作品について次のように語っている。
「ロングショット、静かなリズム、慎ましやかな時間の流れ、自然な人物たち。そしてカメラは飽くまでじっと固定された謙遜の姿。小津の世界は私たちに思い出させます。私は<自然>であり、自然はまた<私>であるとまさに『禅』の世界であるこの考えは私に勇気を与えてくれます」

http://2011.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=245
映画を通じて、日本とイラン、またアジアの世界が普遍的な精神性でつながっていることをキアロスタミ監督は教えてくれた。
アイキャッチ画像は
キアロスタミ監督、黒澤明監督と
http://cinemairanianoblog.blogspot.com/2019/01/libro-abbas-kiarostami-immaginare-la.html

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