宮沢賢治の詩に表現されるウクライナ ―人を思いやることの幸せ

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Translation / 翻訳

 他者を思いやることを説く宮沢賢治の詩は、ウクライナの日本紹介イベントなどでも読まれたことが紹介されている。(千野境子「キエフ紀行—『遠い国』ウクライナで高まる日本への関心」nippon.com)


 「人間は他人のことを思いやって行動し、よい結果を得たときに、心からの喜びを感じるものである。その喜びこそ、人間愛に基づく本当の「幸せ」なのである。」(宮沢賢治『銀河鉄道の夜』より)


 その宮沢賢治には「曠原(こうげん)淑女」というウクライナが表現される詩がある。畑で作業をする二人の女性を「ウクライナの舞手のよう」と詠む賢治の美しい風景画のような作品だ。彼にとってウクライナの情景とは豊かな穀倉地帯で舞う優美で「幸せ」な女性たちを思い描くものだったのかもしれない。


  日ざしがほのかに降ってくれば
  またうらぶれの風も吹く
  にはとこやぶのうしろから
  二人のをんながのぼって来る
  けらを着 粗い縄をまとひお
  萱草のやうにわらひながら
  ゆつくりふたりがすすんでくる
  その蓋のついた小さな手桶は
  今日ははたけへのみ水を入れて来たのだ。
  今日でない日は青いつるつるの蓴菜を入れ
  欠けた朱塗の椀をうかべて
  朝の爽かなうちに町へ売りにも来たりする
  鍬を二挺ただしくけらにしばりつけてゐるので
  曠原の淑女よ
  あなたがたはウクライナの
  舞手のやうに見える
   ……風よたのしいおまへのことばを
     もっとはっきり
     この人たちにきこえるやうに云ってくれ…… 

ウクライナの麦畑
https://www.arc2020.eu/ukraines-grain-breadbasket-for-oligarchs/?fbclid=IwAR3dC1ZA5bliAX7yTpx8RpypHMOotDe-HttT7N9x0Dxu-oL_QpCDvUjPvkI


 イスラムの聖典である『コーラン(クルアーン)』の「婦人章第36節」には「アッラーに仕えなさい。何ものをもかれに併置してはならない。父母に懇切を尽くし、また近親や孤児、貧者や血縁のある隣人、血縁のない隣人、道づれの仲間や旅行者、およびあなたがたの右手が所有する者(に親切であれ)。アッラーは高慢な者、うぬぼれる者をお好みになられない。」とある。この章句などは「雨にも負けず」の精神世界にきわめて似ていることに気づくが、賢治の情感がいかに普遍的なものであるかはこのコーランの章句からもわかる。


 イランでも宮沢賢治の詩が翻訳され、イラン人女性の日本文学研究者アスィエ・サベルモガッダムさんは「雨ニモマケズ」など31編を収録した宮沢賢治の訳詩集を出版した。彼女は「宮沢作品は仏教観を反映したものが多いのですが、どれも生活や自然を描き、純粋で美しい。宗教の違いを超えてイラン人の心に響く」と語った。(『読売新聞』中西賢司記者の記事、2016年4月15日付)。

宮沢賢治
「曠原淑女」より
https://blog.goo.ne.jp/…/8778e7c51a2977fda6d091ecd7fb6bd1


「確実に幸福な人となるただ一つの道は人を愛することだ。」(トルストイ)


「世界ぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない。」(宮沢賢治「農民芸術概論綱要」『宮沢賢治全集』ちくま文庫)。

 欧米の政治指導者たちが一片でも宮沢賢治の「愛」の情感を共有することがあったらと思う。

アイキャッチ画像はウクライナのダンサー
https://jp.linkedin.com/…/tyrsa-ukrainian-dancing-school

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