パキスタンやアフガニスタンで30年余りにわたって支援活動を行った中村哲医師と作家の澤地久枝氏による『人は愛するに足り、真心は信ずるに足る――アフガンとの約束』(岩波書店、2010年)に、「川筋」の気質について語った箇所がある。福岡北部の遠賀川で石炭の輸送に係わる人々を「川筋者」と言って、気性は荒いが、他人の面倒見がよく、人のために一肌脱ぐ、人生意気に感ずるような人たちのことを形容した。伯父である作家の火野葦平の作品には、中村医師の祖父である玉井金五郎を主人公とした『花と龍』があり、石炭仲仕たちへの人情篤い姿が描かれている。

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中村医師は、対テロ戦争に協力する日本政府の姿勢をとらえて「戦争協力が国際貢献とは言語道断である」と発言してきた。何回も繰り返してきたが、日本政府のいう「国際貢献」とは軍事的に強大な米国への貢献が中心に意識されている。
中村医師が行っているのは、「人々が生存するための、生きていくための事業に対する支援」であり、アフガニスタンで井戸を掘ったり、灌漑施設を整備したりして、農地を造成してきた。こうした民生への安定への支援こそが「積極的平和主義」というべきものだろう。

2001年10月に始まった米軍など欧米諸国によるアフガニスタン空爆にも日本政府は真っ先に支持を行った。中村医師は、欧米のNGO活動は、現地の人々をどこか見下したところがあるのですと、私に語っていたが、そうした印象は中央アジアなどでも欧米の援助団体の職員と遭遇した時に感ずることがある。

欧米諸国には、発展途上国、特にイスラム世界の人々に、欧米の基準や価値観を押しつけようとする傾向が見られる。アフガン空爆を行ったブッシュ大統領は「タリバンは女性を奴隷のように扱っている」と語っていたが、空爆が始まった直後に訪れたアフガニスタンでは、女性たちは生活物資の配給となると、わっと戸外に出てきて、食料を配るアフガン人の男性たちのほうがどこか弱々しく見えたこともあった。
アフガニスタンをはじめ紛争地域や不安定なイスラム世界の人々が日本に期待するのは中村医師が主張するように、米国の軍事行動への協力ではなく、民生安定への支援であることは間違いないと思っている。

http://365letters.tokyo/2016/09/documentary-of-afghanistan/
安倍元首相は安全保障関連法案を審議する衆院特別委員会の中で、民主党の辻元議員が「自衛隊員の生命に関わる問題ですよ」というと、「大げさなんだよ」とヤジを飛ばしたことがある。また、「自衛隊員に絶対に犠牲が出てはいけないという議論に違和感を感ずる」と発言した外務省の元官僚もいる。自衛隊員の生命や安全を軽んずるような、これらの人々の考えは他者への思いやりを強くもっていた川筋者たちのそれと対極にあるかのようだ。日本人が伝統的に大事に思ってきたのは、言葉遣いや行動は荒いものの、人助けや筋の通った行動を重んじた川筋者の気質のほうだと思うのだが・・・。
アイキャッチ画像は 自ら重機を操縦して工事を進めた中村哲医師
http://www.city.fukuoka.lg.jp/…/shisei/fica/fica.html
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